将来を見据えた、次世代サーマルマネジメントの構築を
今回は、EVの冷暖房システムの変遷について取り上げた。従来、ガソリン車の冷暖房システムはあまり注目されてこなかったが、EVの普及に伴い、一充電走行距離だけでなく、冷暖房時の走行距離も重要な議論の対象となってきている。
この変化を受けて、主要なEV自動車メーカーはEV特有の冷暖房システムの必要性を認識し、革新的な冷暖房システムの開発を進めてきた。
しかしながら、日系自動車メーカーや空調システムメーカーは、研究は続けているものの、表立った発表は見られない。今回の内容にて、注目すべき2つの課題があると考える。
1つ目は、OTA(Over the Air)との連携の重要性である。発売時に自動車メーカーが設定した冷暖房条件であっても、地域やユーザーの要望に応じて、特定の国や地域に適した条件をユーザーに提供することが可能となる。OTAを先駆けて導入している中国では、2023年時点で新車販売の57%がOTA搭載車となったとの報道がある。OTAは、日系自動車メーカーが課題としている1つであり、これを克服し、冷暖房システムに対してもOTA対応を進める必要があろう。
2つ目の課題は、日系自動車メーカーや空調部品メーカーへの危機感である。EVに適した革新的な冷暖房システムの開発は、大きなリスクと決断を伴う。しかし、搭載の機会が少ないと、特に空調部品メーカーはEVの革新的な冷暖房システム開発における競争力が弱まることが考えられる。その場合、競争力が不足している空調部品メーカーは、海外の自動車メーカーや空調部品メーカーからM&Aの対象となる可能性があろう。
EVの普及拡大が予想されるものの、現在は踊り場と言われている今こそ、EVの冷暖房システム開発に関する優先度を上げ、将来を見据えた次世代のサーマルマネジメント構築が求められているのではないだろうか。
なぜ日本のメーカーはイノベーションが苦手なのか? 三菱自動車で世界初の量産電気自動車「i-MiEV」の開発責任者などを歴任したe-mobilityコンサルタント・和田憲一郎氏が、世界で進むEVシフトや時代の変化に適応するためのマネジメント法など、「新時代のモビリティ」について解説する。
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