太陽ホールディングス 代表取締役社長の佐藤英志氏(撮影:川口紘)

 電子部品のプリント基板に使われる「ソルダーレジスト」で世界シェアトップの太陽ホールディングス(以下、太陽HD)。2011年に佐藤英志代表取締役社長が就任すると、それから10年余りで売上2倍、営業利益3倍という躍進を果たした。要因の一つは、新規参入した医療・医薬品事業の急成長だ。同社はなぜ未開拓領域の新事業に挑戦したのか。事業を成功させられた要因は何か。佐藤社長に話を聞いた。

少ないコストで利益を出せる「長期収載品」に特化

――太陽HDは2017年、医療用医薬品の製造・販売を行う太陽ファルマを設立し、医療・医薬品事業に本格参入しました。それから5年で同事業の売上は約36倍、グループ全体の売上高の約3割に成長しています。全くの未開拓領域に進出した理由は何だったのでしょうか。

佐藤 英志/太陽ホールディングス 代表取締役社長

 1969年、東京都生まれ。大学卒業後、監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)へ入所。1999年、エスネットワークス設立。その後、有線ブロードネットワークス(現USEN)常務取締役、ギャガ・コミュニケーションズ(現ギャガ)取締役副社長等を経て、2011年、太陽インキ製造(現太陽ホールディングス)代表取締役社長に就任(現任)

佐藤英志氏(以下敬称略) 当社はソルダーレジスト関連の事業が強い故に、その売上によってグループ全体の業績が左右される状況にありました。電子部品は需要の波が大きく、かつてのリーマンショックや、半導体のシリコンサイクルによって業績も大きな影響を受けてきたのです。

 私が社長に就任した翌年(2012年)の時点では、当社のエレクトロニクス事業において、売上120億円を超える、プラズマディスプレイ用の導電部材という主力製品がありました。しかしこちらは、液晶ディスプレイの台頭により市場が急激に縮小し、わずか2年後に生産停止・事業撤退となりました。

 こうした状況下で、私だけでなく、経営層をはじめとした多くの従業員が景気の影響を大きく受けるエレクトロニクス製品に依存した事業構造を変えなければという危機感を持っていました。そこで第二の柱を作ることにしたのです。

 どの領域に進出するかを考えたとき、需要が安定している領域、簡単に需要がなくならない領域をターゲットにしました。その上で、当社はあくまで化学メーカーですので、その根幹技術を生かせる新領域を探しました。プリント基板に塗布するソルダーレジストも、材料を配合して作る化学製品です。

 こうして事業の新規参入を繰り返し、現在では3つの柱を掲げ事業に取り組んでいます。その中で大きく成長したのが、医療・医薬品事業でした。

――医薬品は厳格な管理が求められる領域です。リスクはなかったのでしょうか。

佐藤 当然ありました。一方で、ソルダーレジストの知見を多分に生かせると感じていました。材料を配合する過程に加え、製造ラインについても厳格な管理をしています。販売先のメーカーごとにラインを決め、使用する設備も細かく決まっています。

 もちろん実際に参入してみると、ソルダーレジストと医薬品は別物であり、医薬品の製造工程や管理については何度も改善を重ねることになったのですが、当時はこれまでの技術を生かせるメリットの方が大きいと考えたのです。

 参入する上での戦略も固めました。創薬(新薬の開発)は行わず、特許の切れた先発医薬品、いわゆる「長期収載品」の製造・販売に特化するということです。

 医薬品の販売は、大きく3つに分けられます。まず新薬が作られると、開発企業は特許期間中に独占的な販売を行います。その後、特許が切れ、新薬と同じ有効成分を配合したジェネリック医薬品(後発薬)が販売され、先発医薬品は「長期収載品」となります。ジェネリックは長期収載品より低価格で市場に投入されるのが一般的です。

 一般的に化学メーカーが医療・医薬品事業に進出する場合、製薬企業やバイオベンチャーを買収し、利益の大きい創薬に取り組みます。しかし創薬は、開発費が高くリスクを伴います。そこで私たちはリスクが低く、なおかつジェネリック(後発薬)より長期にわたって使用実績のある長期収載品に特化して製造・販売することにしました。

 長期収載品はすでに効果や安全性が証明されており、かつ市場で十分認知されたニーズの高い薬です。このような「あるべき薬」を安定供給していく、また、剤形変更や新規適応を行うことで医療現場や患者様のニーズに応えていく会社を目指しています。