
かつて最先端の半導体技術を誇っていた日本。だが、今や半導体市場の勢力図は大きく塗り替えられ、日本企業は外国企業に大きく水をあけられている。AI(人工知能)の「頭脳」であり、経済安全保障の「重要物資」とされる半導体製造において、日本は再び輝きを取り戻すことができるのか? 本連載では『半導体ニッポン』(津田建二著/フォレスト出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。日本と世界の半導体産業の「今」を概観しながら、世界市場の今後を展望する。
今回は、日本の半導体産業におけるイノベーション創出には何が欠けているのか、海外との比較からそのヒントを探る。
これからの半導体業界のあるべき姿

■「社長室」のない社長像
世界の半導体企業の経営者を取材していると、日本のこれまでの経営者とは全く違うことがわかる。
日本では社長やCEOが社員を鼓舞して社員自ら仕事に向かっていくという姿勢に導くことが少ない。米国のトップを取材すると、自分の会社をいかにして成長させるか、そのための社員のモチベーションをいかにして高めるか、会社の価値は何か、いかにしてみんなの思いを一つの方向に向かわせるか、という経営課題に腐心している。
例えば世界の全ての企業の時価総額で常にトップクラスに位置するようになったエヌビディアのCEOには社長室がない。社長室に閉じこもるよりも、社員や外部の人たちの考えや意見を聴き、会社が進むべき方向を常に見直し軌道修正できるようにしているという。社員に対しても、たとえ結果が悪くても叱責するのではなく、そこから何を学んだかをレポートさせるという。
残念ながら日本の大企業で社長室のないトップは聞いたことがない。
社長室を欲しがらない社長は実はほかにもいる。ソフトウェアベースの測定器メーカーのNI(ナショナルインスツルメンツ)社は7000人規模の会社であるが、数年前まで創業者兼CEOを務めていたDr.T(ドクターティー)こと、ジェイムズ・トゥルッチャード氏には社長室がなかったが、なぜ持たないのかを質問したことがある。