2018年に経産省が公開した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」は、当時の日本の産業界に衝撃を与え、多くの企業がDXへ舵を切るきっかけとなった。そのレポートの実質的な著者である和泉憲明氏は現在、日本の国際競争力強化に向け、デジタル変革のための政策展開基盤となる官民連携スキーム「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の社会実装を進めている。
ウラノス・エコシステムが立ち上がったことで、和泉氏は「日本が本気でグローバルで勝てる土壌が整った」と話す。日本はいかにデジタル時代を勝ち抜くのか。そのとき、行政や企業はどう振る舞うべきか。和泉氏に聞いた。
急速な社会変化に対応しうる新たな意思決定のための枠組み
――アーキテクチャ戦略を主導する立場として、アーキテクチャ政策が必要となる社会的背景はどこにあると考えていますか。
和泉憲明氏(以下敬称略) 技術革新による産業構造の変革をはじめとした急峻(きゅうしゅん)な社会変化や、地政学リスクや経済安全保障といった予見が不可能なことへの対応としては、これまで以上に官民が一体となって取り組むことが重要だと考えています。そこで新たな官民連携のイニシアチブとして取り組んでいるのが「ウラノス・エコシステム」です。
近年のデジタル変革は、産業革命や明治維新に匹敵する大きな変革といえます。変革について話すときに私がよく例え話で使うのは、1900年代初頭のニューヨーク五番街の写真です。ほろ馬車で溢(あふ)れかえっていた通りが、たった10年余りでT型フォードの車列に置き換わったという有名なものです。
政府としても時代の変化に対応すべく、デジタルを基軸とした新たな社会や産業構造の形成を試みています。しかし従来のアプローチではその対応が追いつかないことが予想できます。なぜなら、これまでの政策推進は、課題聴取から政策設計、法律制定、モニタリングという一連のプロセスに従っていました。ところが近年の環境変化は著しく、策定した政策をモニタリングするころにはすでに環境が変わってしまい、時代遅れになりかねません。
そこでスピーディーな政策推進を実現するために求められるのが、官民が一丸となって方向性を1つにすることです。「ウラノス・エコシステム」では、個々の会社に限定せず、産業界全体で決めた意思に対して政府がフルコミットし、政策の意思決定から遂行までを迅速に展開することを目指しています。
具体的には情報処理推進機構(IPA)内にデジタルアーキテクチャ・デザインセンターを設置しました。そこに官民から有識者が集まり、関係省庁やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)とも連携して共通課題について議論します。そこで解決の道筋として意思決定したものに対して、政府がコミットするのです。具体的には、業界や国境をまたぐデータ連携やシステム連携によって課題解決するための仕組みをアーキテクチャとして設計し、それをそのまま公益的なプラットフォームとして社会実装するという流れです。