写真提供:ロイター/Pool/ABACA/共同通信イメージズ

 小さなガレージで生まれたパソコンメーカーのアップルを世界的ブランドに育てたスティーブ・ジョブズ。1985年に社内対立で退職したあとNeXTやピクサーを成功に導き、1997年にアップルへ戻るとiMac、iPod、iPhoneなど革新的な製品を次々と世に送り出した。本連載では『アップルはジョブズの「いたずら」から始まった』(井口耕二著/日経BP 日本経済新聞出版)から内容の一部を抜粋・再編集し、周囲も驚く強烈な個性と奇抜な発想、揺るぎない情熱で世界を変えていったイノベーターの実像に迫る。

 今回は、今、世界が最も注目する企業家の一人であるイーロン・マスクとスティーブ・ジョブズに共通する経営マインドや考え方を紹介する。

イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズの再来か

アップルはジョブズの「いたずら」から始まった』(日経BP 日本経済新聞出版)

 ここ数年、世の中を騒がせている経営者といえばイーロン・マスクだろう。2023年秋に出版された彼の公式伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著、文藝春秋)も私が翻訳を担当させてもらったのだが、訳しながら思ってしまった――ある意味、スティーブ・ジョブズと似ているな、と。

 ジョブズは細かなところまで突きつめた。Macintoshではウィンドウの角をどう丸めるのかにまでこだわった。iPodでは曲や機能に3クリック以内で直感的に到達できるようにしろと開発陣の尻をたたきまくった。ケースの内側やプリント基板の配線パターンなど、ユーザーから見えないところにまでこだわっている。

 マスクも、「要件はすべて勧告として扱い、要・不要から問い直せ」「部品や工程を減らしてシンプルにしろ。最終的に、減らしたものの10%以上を元に戻さなければならないところまで減らせ」とふつうにはあり得ないレベルで物事を突きつめていく。

■ パワハラ魔神

 人は「賢人」か「ばか野郎」しかいないし、その仕事は「最高」か「最低最悪」しかないとジョブズは考えていた。しかも瞬間的に判断し、だめだと思った相手はその場でクビにしたりした。

 だから、暫定CEOとして彼がアップルに復帰したころ、製品のプレゼンをしろと呼ばれるのを社員はみんないやがった。製品が切りすてられるかもしれなかったから。自分も一緒に、だ。エレベーターに一緒に乗るのもいやだ。ドアが開くころにはクビになっているかもしれないから。これを避けようと階段に切り替えた社員もいたという。