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三井不動産は2030年に向けた新グループ長期経営方針を発表し、その実現を支える重要な施策として全社的なDXを進めている。そしてDXの推進に不可欠なデジタル人材の育成には、DX部門と事業部門のそれぞれで人事異動を伴う本格的な研修を実施しているという。デジタル人材育成の責任者である執行役員の宇都宮幹子氏に、その詳細について聞いた。
不動産業でデジタルを生かすのが難しい?
――2024年は、4月に長期経営方針「&INNOVATION 2030」を策定し、その後8月に「DX VISION 2030」を発表しています。DXに特化した方針を、あえて単独で出した理由は何でしょうか。
宇都宮幹子氏(以下・敬称略) &INNOVATION 2030の前の中期経営方針に当たる「VISION 2025」は2018年に策定しましたが、この時も、「DX VISION 2025」を同時に策定しています。VISION2025で掲げた方針の1つが「リアルエステート・アズ・ア・サービス」、デジタルを採り入れ不動産業そのものを変革することがテーマでした。
この6年間で、デジタルは不動産業に必要なインフラとして当たり前になり、ビジネス部門ではデジタルの実装はもちろん、どう使いこなすか、デジタルで顧客価値をどのように生み出すかという議論に移ってきているので、新たなDX VISION 2030では、「リアル×デジタルビジネス変革」「AI/デジタル人材変革」「デジタル基盤変革」の3つを柱に掲げより進化させています。
議論の中では、もう少し挑戦的な変革テーマを掲げるべきではないかという議論もしましたが、デジタルは事業を支えるインフラであるという共通認識の下、まず注力すべきは人材の領域だろうという方向にまとまりました。会社が装置を用意してもそれを動かす、生かすのは社員です。全社員が自分の担当するプロジェクトや業務にデジタルを採り入れてビジネスを進化させることに本気で取り組む、自ら動かすという気にならなければ、DXは前に進めることができないからです。
――当初は不動産業とデジタルの結び付きがイメージしづらかったということですが、なぜでしょうか。