世界最先端の「2ナノ半導体」量産を目指す国策企業ラピダス(Rapidus)。日本の半導体産業の復権の鍵を握ると言われるが、早稲田大学商学学術院経営管理研究科教授の長内厚氏は、同社の経営戦略には問題があると指摘する。一方で長内氏が「見習うべき」とするのは、台湾TSMCの子会社JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)だ。2024年4月、著書『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』(日経BP 日本経済新聞出版)を出版した同氏に、ラピダスとJASMの比較を通じて、日本の半導体産業復活に必要な経営戦略の在り方について聞いた。(前編/全2回)
■【前編】最先端ではなく「10年前の半導体」を作るJASMに政府が大型投資をする納得の理由(今回)
■【後編】ソニー「CMOSセンサー」成功の秘密、4代目岩間社長から継承した「引き算の発想」とは
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大規模生産を目指さない「ラピダス」が抱える不安
――著書『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』の序盤では、日本の半導体産業の復権に向けて大きな注目を集めているラピダスと、台湾TSMCの熊本工場を運営する子会社、JASMの経営戦略を比較しています。序盤ではラピダスの経営戦略について触れていますが、そもそも何が課題なのでしょうか。
長内厚氏(以下敬称略) ラピダスの課題は3つあると考えています。1つ目は「超最先端技術である2ナノメートルプロセスの半導体を、本当に作れるのか」という点です。
現在、日本が自力で作れるのは「40ナノ」が限界です。それにもかかわらず、途中のプロセスを飛び越して「2ナノ」を作るのは安易な発想ではないでしょうか。
日本が先端半導体を目指す必要はないということではありません。1980~90年代に活躍した半導体エンジニアが残っている今のうちに先端半導体開発を目指すラピダスの試みは重要です。
ただ、野心的な目標ではありますが、県大会にも出たことのないスポーツ選手がオリンピックに出ようとするくらい無謀なこととも言えます。
2つ目は「大規模な生産を目指さない」という点です。ラピダスは規模を追わない少量多品種生産を目指す、としています。しかし、半導体産業は装置産業という特性を持つため「大量生産による低コスト化」が収益の鍵です。そうした前提がある中で「数を追わない」という戦略がどこまで成り立つのか、率直に疑問です。
しかも、2ナノについては、サムスン電子やTSMCが2025年の製造開始を明言しています。そうなったときに、大量生産を得意とするサムスン電子やTSMCに対抗できるのか、現時点では根拠が見当たらないのです。
3つ目は「誰に売るのかが明確でない」という点です。言い方を変えれば「良いものさえ作れば売れる、という“技術信仰”に縛られているのではないか」ということです。
このままでは、一歩間違えると「良いものを作ってはみたけれど、結局あまり売れなかった」という、これまで日本企業が繰り返してきた失敗パターンに陥りかねません。ラピダスは今後、アメリカに営業拠点を設けてマーケットを広げる計画とのことですが、それは簡単なことではないように思います。
ラピダスという企業にとって、本来2ナノを作ることは最終目的ではないはずです。あくまでも2ナノを作ることは手段であり、そこからいかにして「経済的な利益を持続的に生み出せるか」が最終ゴールであるべきなのです。