ルネサス エレクトロニクス CHRO ジュリー・ポープ氏(撮影:川口紘)

 日立製作所と三菱電機、NECの半導体部門を源流とする半導体メーカーのルネサス エレクトロニクス(以下ルネサス)は近年、海外企業のM&Aを重ねている。事業の多角化、グローバル化に伴い、人事制度の改革にも着手。2021年に買収先である英国のDialog Semiconductorから入社し、2022年9月にルネサス初のCHRO(最高人事責任者)に就任したジュリー・ポープ氏に、ルネサスが目指す人事制度の在り方について話を聞いた。

給与と福利厚生を一本化

──ポープさんはこれまで米国のIBMやAmerican Express、英国のDialog Semiconductorといったグローバル企業で人事職を務めてきた経験があります。なぜ、ルネサスへの入社を決めたのでしょうか。

Julie Pope(ジュリー・ポープ)/ ルネサス エレクトロニクス 執行役員兼CHRO

アクチュアリーとしてThe Wyatt CompanyとKPMGでキャリアをスタート。1998年にIBMに入社し、ニューヨークやパリでさまざまな人事関連職に従事する。2003年からはAmerican Expressで同じく人事関連職を担う。2017年にDialog Semiconductorに人事担当のSenior Vice Presidentとして入社。2021年、ルネサス エレクトロニクスDialog Semiconductor買収後、ルネサスに入社し人事統括部長を務める。2022年9月同社執行役員兼CHRO(Chief Human Resources Officer)就任、現職。

ジュリー・ポープ氏(以下敬称略) 私はルネサスに買収されたDialog Semiconductorのシニアバイスプレジデントを務めていましたが、買収された当初は入社を迷っていました。というのも一般論で言えば、企業が買収された後も買収以前の役割を継続できるケースは少ないからです。

 それに、ルネサスは日本で上場している企業で、伝統的な日本企業という印象が強かった。私は日本語を話せませんし、日本企業で働いた経験もありません。私に日本企業をマネージする能力があるとは思えなかったのです。 

 しかし、CEOの柴田英利やリーダーシップ・チーム(経営層)との会話を通して、ルネサスで働いてみたい、と思うようになりました。

 ルネサスは海外企業のM&Aを複数回行うことで、組織体制・文化も「グローバル企業」になっていましたし、リーダーシップ・チームもグローバルな競争環境で勝つことができる人事制度を構築したいという意向を持っていました。実際、北米や欧州、中国など30カ国以上で事業を展開する当社は、日本以外の従業員が約6割です。

 また、ルネサスが人事の重要性を認識していたことも大きかったですね。伝統的な日本企業はメンバーシップ型の人事制度を構築していて、新卒採用者がメインですが、ルネサスはグローバル企業として、中途採用に注力していますし、優れた人材は国籍やバックグラウンドを問わず採用し、活躍してもらおうという考え方を持った企業だと分かったのです。

「ルネサスのような会社であれば、これまでの私の経験を生かせる」と確信したことが、入社のきっかけです。

──ルネサス入社後、約3年が経過していますが、これまでどのようなことに注力してきたのでしょうか。

ポープ 半導体業界は、優れたエンジニアの争奪戦になっています。優秀なエンジニアに入社してもらい、持っている力を最大限発揮できる環境を用意することが、CHROにとって重要な仕事になります。

 採用に関しては、これまで世界各国の拠点でバラバラになっていた給与・福利厚生の水準を概ね一本化しました。優秀なエンジニアにとっては、国境はあってないようなものです。給与や福利厚生が住んでいる国に縛られていると、魅力を感じません。労働条件を一本化することは、優れた人材を獲得する上で必要なことでした。

 働き方に関しては、従業員がどの国で勤務していても、年間30日を上限に、約40カ国からリモートワークできる制度を新設しました。

 現在、ルネサスの世界各国の拠点で働く従業員の中には、勤務地とは別の国に家族がいる人が多数います。一時的に日本や英国で単身勤務していたとしても、母国で家族と共に過ごしたいと思っている社員が多いのです。彼らのニーズに応えるべく、年間30日は外国で勤務できる制度を作りました。今後は、対象国を120カ国以上に拡充していく予定です。

──ルネサスは急激にグローバル企業になりましたが、これまで日本企業の人事システムしか経験してこなかった社員が戸惑うこともあったのではないですか。