
人的資本理論の実証化研究会が 2024年9月に公表した『有価証券報告書における人的資本の投資対効果に関する開示レーティング分析結果(日経225版)』において、人的資本開示のスコアが1年で最も上昇したのが、本田技研工業(以下、ホンダ)だ。2025年2月に発表された「人的資本調査2024*」でも「人的資本経営品質シルバー」を受賞し、人的資本経営や開示への取り組みで注目を集める。本田宗一郎のフィロソフィーを受け継いだ、独自の企業文化を人的資本経営においてどう反映し、開示項目や指標へと落とし込んでいるのか。人事統括部長の安田啓一氏に聞いた。
*一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム、HR総研、MS&ADインターリスク総研株式会社、一般社団法人人的資本と企業価値向上研究会が共同で主催する人的資本経営の取り組み状況に関する調査
「2つの軸」で人的資本経営・開示を段階的に高める
――最近になって、人的資本開示に積極的な企業の1つに「ホンダ」の名前をよく見かけるようになりました。
安田啓一氏(以下敬称略) 当社はこれまで人事領域に関する戦略や施策について、対外的にはあまり発信してこなかったのが一因かもしれません。ただ、誤解のないように言うと、決して開示に後ろ向きだったわけではありません。
ホンダ のビジョンは「移動と暮らしの領域で、モビリティを通じてすべての人に生活の可能性が拡がる喜びを提供する」ことです。そのビジョンの実現のためには、商品・サービスを通じて世界中の人々に喜びを届け、さらに拡げることに最も注力すべきで、それとは直接関係のない水面下での努力をあまり公に見せるものではない。そんな考えが根強かったのです。
ただ、統合報告書を作成する過程で、投資家・従業員・労働市場といったステークホルダーが私たちの発信に何を求めているのか、どう受け止めているのかを意識するようになりました。そして、人的資本経営の取り組みを通して、各ステークホルダーに自社への期待を持ってもらうことの重要性を、私自身も2023年に現職に就いて以降、遅まきながら痛感しました。
そこで、同年から統合報告書やメディアを通じて、人的資本経営に対する情報発信に注力しています。
――具体的には、どのようなプロセスで人的資本経営の実践や開示を行っているのですか。