
かつて「都市ガス事業の会社」だった東京ガスグループが、複数の事業の柱を持つグループへと、組織構造の変革を進めている。それに伴い同グループでは、都市ガス事業に最適化された人事戦略の在り方も大きく方向転換している。新たな成長領域に挑戦するための専門人材の育成とリソースシフトをどう実現するのか。個々の社員の意識変革をどう促していくのか。グループの人的資本経営の舵取りを担う常務執行役員 CHRO(最高人事責任者)の斉藤彰浩氏に聞いた。
環境変化によって迫られた都市ガス事業を主とする経営からの構造転換
――東京ガスグループは従来のエネルギーの枠にとらわれない領域へ事業を広げようとしています。それに伴いグループではどんな人材戦略に取り組んでいますか。人的資本経営の考え、方針はどのようなものでしょうか。
斉藤彰浩氏(以下敬称略) 東京ガスグループは1885年の創業以来、140年間にわたってガス事業を主として成長してきました。1960年代には、LNG(液化天然ガス)の輸入を開始。ガス田開発や原料調達から始まり、LNGタンカーによる輸送、都市ガスの製造、パイプラインを通じて、お客さまの元に届けるところまでのバリューチェーンを確立し、社会のエネルギー需要に応え続けてきました。
そこに近年、2つの大きな環境変化が起こっています。
1つが、2017年4月からのガス小売の全面自由化です。新規のプレーヤーがガス市場に続々と参入し、これまでの規制市場から競争市場へと状況が一変しました。逆に当社にとっても、2016年からの電力小売の全面自由化により、家庭向けの電力販売という新たなエネルギー市場に打って出るチャンスが生まれました。
もう1つの大きな変化が、グローバル規模での脱炭素社会の実現に向けた動きです。長い目で見ると、化石燃料を使ってビジネスを継続していくのは難しい。再生可能エネルギーやe-メタン(合成メタン)などGX(グリーントランスフォーメーション)分野にも否応なく取り組まざるを得ない状況になりました。