DX(デジタルトランスフォーメーション)の波は都市ガス業界にも広がっている。検針など煩雑な業務の自動化・効率化はもちろん、エネルギー需給から顧客情報までをデータベース化し、個々の顧客にとって最適なエネルギーサービスを提案するような新しいビジネスも生まれつつある。これらの取り組みを発展させれば、都市ガス業界が脱炭素により貢献していくことも可能だという。
都市ガス業界のDXの最新動向と課題について、ガスエネルギー新聞常務取締役編集長の大坪信剛氏に聞いた。
<連載ラインアップ>
■第1回 注目技術「e-メタン」で脱炭素社会をどう創る? ガスエネルギー新聞編集長に聞く、都市ガス業界の最新動向
■第2回 「一足飛びに排出ゼロ」はどこまで現実的か? ガスエネルギー新聞編集長に聞く、日本の電源構成の最適解
■第3回 温室効果はCO2の28倍、排出抑制すべきメタンガスが「エネルギー源」として注目される理由
■第4回 AI、RPAをサプライチェーンで大活用 東京ガス、大阪ガス、北海道ガスが進めるDX最新動向(本稿)
■第5回 700社超が「GXリーグ」に参加、都市ガス業界が「カーボン・クレジット市場」に感じた新しい価値とは?
■第6回 南海トラフ、首都直下型にどう備えるか?ガスエネルギー新聞編集長に聞く、進化する都市ガス業界の巨大地震対策
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DXのテーマは「自動化・省力化」と「顧客接点の強化」
――日本の都市ガス業界でのDX(デジタルトランスフォーメーション)は、どのように進んでいるのでしょうか。
大坪信剛氏(以下・敬称略) 都市ガス業界の仕事をサプライチェーンで整理すると、海外からLNG(液化天然ガス)を輸入・調達する「上流」事業、ガス導管を通じて都市ガスを各家庭や工場などに届ける「中流」事業、ガスメーター検針業務や料金徴収、安全点検、ガス機器提案などの顧客接点を担う「下流」事業の3つに分けられます。
日本の場合、上流を手掛けるのはごく一部の大手ガス会社だけですので、日本で進んでいるのは中流と下流のDXになります。一般に最も分かりやすいのは下流の例ですね。「自動化・省力化」と「顧客接点の強化」という2つを目指した取り組みが進んでいます。
もともと都市ガス業界には、家庭やオフィスに設置されているガスメーターの使用量を確認し、検針票を発行する「検針業務」があります。請求金額を確定させるために欠かせない業務ですが、検針員が一戸一戸を巡回して対応しなければなりませんでした。
そこで人手不足が深刻化する中でこの負担を軽減しようと、従来のガスメーターを、通信機能や遠隔制御の機能を搭載した「スマートメーター」へ置き換える動きが広がっています。スマートメーター化は電力会社が先行していて、都市ガスは出遅れていましたが、東京ガスグループ、大阪ガスグループが導入を開始し、2024年5月に東邦ガスグループが家庭向けのスマートメーター導入を発表しました。
また「ガス事業生産動態統計調査」といって、国内の都市ガス会社は毎月、経済産業省資源エネルギー庁に販売量や供給量を報告する義務があります。メーターの取り付け数や販売量、顧客数なども報告しなければならないため、これも大きな負担でした。
この負担を軽減するため、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)による自動化に挑戦している例もあります。例えば、大阪ガスグループの関西ビジネスインフォメーション(KBI)という企業が、名張近鉄ガスに対し、RPAを活用した調査票作成を提案。試験的に導入してみたところ、1カ月当たり約80分かかっていた調査票作成が約25分に短縮でき、約70%の効率化が達成できたと公表しています。これらは人手不足に対応する「自動化・省力化」という意味でDXと言えると思います。