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 メーカーと小売をつなぐ結節点の役割を果たす食品卸業界。従来は経常利益率1%以下の薄利が当たり前だったが、コロナ後にそれが転換。デジタル技術や提案力などを積極的に活用して、しっかり利益も確保していこうと変化しているという。

 食品卸各社の収益力改善に向けた戦略を、流通業界の専門誌、月刊『激流』編集長の加藤大樹氏に聞いた。

<連載ラインアップ>
■第1回 「一気にドラッグストア大再編が進む可能性も」月刊『激流』編集長に聞く小売業界の注目動向
■第2回 総合スーパーの再編は最終ステージに突入? 月刊『激流』編集長に聞くGMS再編・改革の最前線
■第3回 セブン、ファミマ、ローソン…月刊『激流』編集長に聞くコンビニ業界「成長持続」のための打ち手
■第4回 オーケー、ロピア、トライアル…注目はディスカウント系の動き、月刊『激流』編集長に聞く食品スーパーの生き残り策
■第5回 三菱食品の脱・売上至上主義、日本アクセスの「情報卸」強化…月刊『激流』編集長に聞く食品卸の収益力改善戦略(本稿)


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三菱食品が売上至上主義から脱却

――食品卸は一般のビジネスパーソンになじみの薄い業界です。どういう業界なのでしょうか。

【月刊激流】

1976年、製配販にまたがる流通業界の専門誌として創刊。スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストア、百貨店など、小売業の経営戦略を中心に、流通業の今を徹底的に深掘り。メーカーや卸業界の動向、またEコマースなどIT分野の最前線も取り上げ、製配販の健全な発展に貢献する情報を届ける。

加藤大樹氏(以下敬称略) 海外ではメーカーも小売も寡占化しているところが多いので、メーカーと小売の直接取引は珍しくありません。けれども日本では、メーカーと小売のいずれもが非常に数多くあるので、直取引ではかえって効率が悪くなってしまいます。そこで、メーカーと小売の間に入って取引を交通整理する卸売業が重宝されてきた歴史があります。

 ただ、食品卸の場合、利幅が非常に薄いという特徴があり、主要な食品卸は経常利益率1%の達成を目標にしていました。実際、5年前には、加藤産業を除くと主要大手は軒並み経常利益率が1%以下でした。利益より売上を重視する会社が多かったため、売上至上主義と形容されることもありました。

 そうした中でいち早く売上至上主義からの脱却を宣言したのが、三菱食品でした。同社は10年ほど前から採算が合わない取引を積極的に見直しており、直近ではドラッグストア業界首位のウエルシアホールディングスと躍進著しいロピアとの取引から撤退するなど、聖域を設けず取り組み先を選んでいる印象です。

――三菱食品以外の各社も追随しているのですか。

加藤 追随というよりは、新型コロナの影響が大きかったというのが実情です。この業界では取引のことを帳合と言いますが、コロナの前には競合他社が帳合変更を仕掛けるとか、小売側が納入価格を下げるために卸同士を競争させるといった動きが激しく、多くの卸会社が疲弊していました。

 ところがコロナの感染拡大が始まると、消費者が外食を敬遠するようになったため、スーパーなどでの買い物が増え、小売各社は販促をしなくても商品が売れるようになりました。そして卸は、サプライチェーンを維持してきちんと納品することが大前提になる中で、その後の原材料高騰などもあり、ある程度の値上げができるようになった結果、自然と利益率が改善したのです。そのため前々期と前期は好業績の嵐となり、前期はほとんどの大手で経常利益率が1%を超えました。

 しかし、今期に関しては商品の値上げが簡単にできる環境ではなくなった一方で、物流費などの上昇が効いて、もはや1社でコストを吸収できる状況ではないという経営者もいます。実際、他社との共同配送などをやっていかないと厳しいという声も出ています。したがって今期の業績はそこまでよくならないだろうというのが、食品卸業界の全体感です。