冷蔵のおかずを毎月個人宅に届ける、大阪ガスの新規事業「FitDish(フィットディッシュ)」では、いかに「家庭の味」を再現するかが重要テーマだった。既成概念に囚われない方法で消費者が喜ぶ味をどう生み出すか、繰り返された試作と試食。
大阪ガスの新規事業開発の舞台裏に迫るこの特集。第2回となる本記事では、本社のプロジェクトメンバーと、同社グループのクッキングスクールのメニュー開発担当の2名に、奮闘の現場を聞いた。
100年におよぶ、大阪ガスと食との関わり
社会インフラの企業として知られる大阪ガスが、新たに始めた食品宅配事業「FitDish(フィットディッシュ)」。一見、既存ビジネスとは無関係とも思える新サービスだが、じつは同社は、食との長い関係を続けてきた。その歴史を紐解いてみよう。
1897年に設立し、1905年にガスの供給を開始した大阪ガスは、第一次世界大戦後に照明がガス灯から電灯に代わったことで大きな危機に直面した。そこで打って出たのが、家庭の厨房にガス器具を導入し、日々の調理にガスを使ってもらうという事業の大転換だった。
だが、市民がガスをどう使えばいいか分からなければ、普及しようもない。家庭にガスを導入するには、ガスの使い方を直接伝授する必要があった。そこで同社では社員が直接家庭に出向き、ガスの火で米を炊いたり、調理を実践したりして見せた。これが、同社が「食」と関わる最初の一歩であり、後のクッキングスクール事業へとつながっていく。
FitDishのメニュー開発は、大阪ガスの「FitDish」商品開発担当の川瀬実登里氏と、大阪ガスクッキングスクールの立光直美氏が中心となって進められた。
「大阪ガスクッキングスクールは、1924年設立の『割烹研究室』がそのルーツです。当初は出張型の料理教室でしたが、1933年に大阪ガスの新本社である通称『ガスビル』が完成し、そこに定員100名の料理講習室を開設しました。専任の講師が8名常駐し、現在の集合型料理教室の原型ができあがったのです。この地域は大阪の『船場』と呼ばれており、習い事をするお嬢さまが数多く通ったことで人気の料理教室だったそうです」(川瀬氏)
また、関西では認知度が高いグルメ情報誌の「あまから手帖」は、現在はDaigas Groupの一員であるクリエテ関西が運営母体となっている。そのつながりから、料理店との関わりも深い。さらに、大阪ガスは関西食文化研究会に協賛し、料理人のサポート活動を行うなど、関西地域の食文化と数多くの接点を持つ。「クッキングスクールのお客さまに教える家庭料理は、FitDishの糧になっています。また、私たちの食のプロとのネットワークも、心強い存在でした」(立光氏)。