コンビニ大手のファミリーマートが大規模なデジタル戦略を進めている。決済アプリ「ファミペイ」を起点とする顧客データベースの構築や、店舗に配置した大型デジタルサイネージを通じた独自コンテンツの提供などを通じて、リアル店舗の強みとデジタルサービスの魅力を融合させ、従来のコンビニ業態の枠組みを超えた体験価値の提供を目指す。背景にあるのは巨大ECプレイヤーの台頭への危機感だ。
ファミリーマートのデジタル戦略の狙いや、同社が思い描く店舗の未来像について、「カスタマーリンクプラットフォーム構想」を推進するデジタル事業部門の責任者、国立冬樹氏(デジタル・金融事業本部 デジタル事業部長)に聞いた。
デジタルを起点にビジネスモデルの大転換を目指す
——ファミリーマート(以下・ファミマ)は決済サービス導入から店舗のメディア化に至るまで大掛かりなデジタル戦略を進めています。どのような背景や課題があってデジタル戦略に取り組むことになったのでしょうか。
国立冬樹氏(以下・敬称略) これまでのコンビニ業態の延長線上でビジネスを展開するだけでは生き残れなくなるという危機感が、我々のデジタル戦略の出発点でした。
近年、米アマゾンをはじめ、ECビジネスにおいてグローバル市場を席巻するような巨大なプレイヤーが登場し、従来型の小売り業態に多大な影響を与えています。彼らが提供している価値は、単に「店舗に行かなくても買い物ができる」という利便性だけにとどまりません。プラットフォーマーとして、常に顧客と双方向でつながるチャネルを持ち、購買データなどを収集・分析して顧客一人ひとりのニーズに合致した商品やサービスを提供し、「◯◯経済圏」などと呼ばれるような独自のエコシステムを形成しています。この結果、小売り・流通の業界構造も、人々の消費スタイルも大きく変わりました。
コンビニ業界という範囲での競争だけであれば、今まで通り商品・サービスを研ぎ澄ましていけばよかったかもしれません。しかし、これからは我々もリアル店舗でモノを売るだけではなく、デジタルを基盤に顧客のみなさまと常につながり、さまざまな形で価値提供できるエコシステムを作り上げなければならない。このような課題意識を5年以上前から全社的に共有していました。そこで、我々のビジネスモデルを大きく転換するという決意の下、デジタル戦略に本格的に取り組むことを決めたのです。
もう一つの狙いとしては、リアル店舗の強みを最大限に活かすことが挙げられます。国内には1万6500店ものファミマ店舗があり、1日当たり約1500万人のお客さまが来店されています。これはメディアに喩えると、いわゆる在京キー局に匹敵するリーチ数です。それほどの数のお客さまに日々接しているにもかかわらず、その集客力を、商品を販売することでしかマネタイズできていませんでした。
情報発信機能や広告提供機能を強化することができたら、店舗の魅力を高めるだけでなく、新たな収益ビジネスも生み出せるはずです。そのためには「店舗のメディア化」を進めることが必要で、ここでもデジタルテクノロジーの活用が欠かせません。これも我々がデジタル戦略に取り組むこととなった大きな要因でした。
──具体的には、どのような施策に取り組んできたのでしょうか。
国立 最初に取り組んだのは、2019年にサービス開始した独自の決済アプリ「ファミペイ」です。決済アプリを自社で開発・提供することで、顧客IDデータを取得し、スマートフォンを通じて一人ひとりのニーズに合致した情報を提供したり、新たな商品・サービスを生み出したりできるようになります。
それまでも、Tポイントカードのようにパートナー企業のサービスは利用していましたが、あくまで社外の会員基盤に依存していた面があります。その意味で「ファミペイ」導入は、我々が自前で顧客データ基盤を構築することとなった大きな転換点であり、その後のデジタル戦略の起点になっています。
──決済サービスとしての「ファミペイ」の特徴は?
国立 そもそも我々のような小売り業態が、独自の決済サービスを保有している例は珍しいと思います。またコンビニの場合、お客さまは短時間で買い物を済ませたい方がほとんどで、電子マネーやポイントカードなどをいちいちレジで提示するのは煩わしいはずです。ファミペイであれば、代金支払い・クーポン利用・ポイント取得が、バーコードを1度かざすだけで完了できます。これも大きな特徴です。
このほか、事前にチャージしていただくことで、「ファミペイに1000円チャージしているから、ファミマで買い物しよう」といった志向が働くので、来店と購買を促進する効果も期待できます。我々としては顧客のロイヤル化を図れるということです。