2025年に創業120年を迎える事務用品最大手のコクヨ。同社はワークスタイル領域のオフィス家具やオフィス用品通販、ライフスタイル領域のステーショナリーやインテリアリテールの4つの事業を核としているが、2022年には「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」という自社のパーパスも策定し、新しいコクヨ像を模索している。そこで創業家の黒田英邦社長に、今後の成長戦略や将来のコクヨグループの在りたい姿について話を聞いた。
生活実験型の「賃貸住宅事業」にも参入
――コクヨは「ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする。」というパーパスを新たに策定しました。どのような思いを込めているのでしょうか。
黒田英邦氏(以下敬称略) 企業の役割、ミッションはイノベーションを起こすこと、世の中に新しいものをどれだけ提案できるかだと考えています。現代は、そのイノベーションも社会的な課題解決に資するところまでカバーしなければいけません。
我々の事業領域の世界でいえば、ワークとライフ、それぞれのスタイルをモノではなくコトとして、どのくらい世の中に新しく示すことができるかが重要という観点からパーパスを策定しました。
――未来のヨコク(予告)という点で、具体的な取り組み事例はどんなものがありますか。
黒田 最近では、今年9月に開業した「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」(東京・品川区戸越/全39戸)があります。もともと当社の社員寮だった場所ですが、そこをリノベーションし、生活実験型の賃貸住宅に衣替えして外部の方々にもお貸ししています。
コンセプトは「プロトタイプする暮らし」です。施設内の共用部に大小8つのスタジオやフードスタンドなどを置いているのが特徴で、住んでいる人たちが、自分の働く可能性を広げるための場所、具体的には緩やかな副業を試してもらうための実験場を兼ねています。たとえば、1日単位で自分だけのお店を開店できる飲食店営業許可付きの「スナック」や、ヨガ講師としてレッスンも開催できる「フィットネス」など、さまざまな用途のスタジオを併設しています。
若い人たちが副業にチャレンジすることへのチャンスを作る場を提供することで、先々それが当社の収益を生むサービスになるのか否か、我々としても実験的な取り組みとなっています。
部屋はおかげさまでほぼ満室ですので、今後は戸越以外のロケーションで展開することもあり得ますし、あるいは同じような可能性を感じているデベロッパー企業に、我々のフランチャイズという形でお渡ししていくようなケースも考えられるでしょう。コクヨが手がけているオフィスリノベーション事業の、ショールームとしての役割も担っています。
――いわゆるリスキリングに時間を割く人が増えているので、一定の需要は見込めそうですね。
黒田 我々はモノを提供するメーカーから、お客さまのコトの経験価値や体験価値を高める企業に変わることを標榜しつつ、現在の事業ポートフォリオを変えていくという強い意気込みを持っています。
たとえば、社員が出社したくなるオフィスとはどんなものなのかというニーズがありますが、単にオフィスのインテリアや家具を入れ替えるぐらいでは、本当に出社したくなるレベルに達するのは難しいものです。人事制度や福利厚生制度、研修制度など、組織の在り方や人材の活用の仕方に関わるところまで踏まえてオフィス環境の変化が起きていますから、我々がそうした新しい事業領域にチャレンジできるチャンスは広がってきているともいえます。
もう 1 つの課題がグローバル市場にどうシフトしていくかです。現在、当社の海外売り上げ比率は14%前後のところまで上がってきました。海外でもモノとしての商品ニーズだけでなく、サービスなどコトとしてのニーズも出てきていますので、我々が注力しているアジアの国々にマッチした新しい働き方や学び方、暮らし方について積極的に提案していこうと思っています。