EV(電気自動車)へのシフトを巡ってさまざまな議論が交わされる中、31年間トヨタ自動車で広告宣伝・商品企画に携わり、レクサスブランドのグローバルブランディングも手掛けた髙田敦史氏が、著書『トヨタの戦い、日本の未来。本当の勝負は「EV化」ではなく「知能化」だ!』(集英社インターナショナル)で、EVを巡る本質的な課題とその先にある自動車産業の変革について提言している。EVについての現状認識から新たな価値創造の可能性までを同氏に聞いた。(前編/全2回)
自動車産業の今後を理解するために
── レクサスのリブランディングで活躍されていた髙田さんは「レクサスの人」というイメージが強くありますが、ずっとコミュニケーション関係の仕事をされていたのでしょうか?
髙田敦史氏(以下敬称略) 1985年にトヨタ自動車に入社し、31年間勤めました。広告宣伝やブランディングといったコミュニケーションに関わる仕事が6割で、4割は商品企画に携わりました。商品企画では、開発を担当するエンジニアに寄り添いながら、ニューモデルやモデルチェンジの企画立案を手掛けました。
2012年からはレクサスのグローバルブランディングに従事しました。レクサスは1989年にアメリカで導入して大変成功したブランドですが、ユーザーの高齢化やブランドイメージの陳腐化など、さまざまな課題が生じ始めていました。そこで、新規にレクサス・ブランド・マネージメント部という部署を立ち上げ、レクサスのリブランディングを 4年ほど担当しました。
当時は、世界的に若年富裕層が増加したタイミングで、彼らにレクサスブランドをアピールするには、高い品質や優れたホスピタリティといった機能的な価値だけではなく、従来の自動車ブランドの枠を超えた情緒的な価値を訴求すべきだと考えました。そこで、レストラン「Intersect by LEXUS(インターセクトバイレクサス)」を表参道、ニューヨーク、そしてドバイに出店したり、国際的な家具の見本市である「ミラノサローネ」に気鋭のクリエイターとコラボレーションして作品を出展したり、ショートムービーを制作するなど、さまざまなブランド活動を展開しました。
レクサスのリブランディングがトヨタでの最後の仕事で、2016年に退社して以降は、マーケティングやブランディングのコンサルタントとして活動しています。アパレルや不動産などさまざまな業種に関わっていますが、実はクルマ関連の仕事は基本的にしていません。
──そうした中で、自動車産業をテーマにした本を書かれた背景には、どのような思いがあったのでしょうか?