自動車産業が大きな転換期を迎え、電気自動車(EV)へのシフトが進む中、その先にあるクルマ像についての新たな視点も現れ始めている。技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏は、著書『ポストEVの競争軸 デジタルビークルの知られざる正体 人と対話するクルマの未来』(日経BP)で、次世代自動車を「デジタルビークル(DV)」と呼び、これからのクルマの在り方を考える上で重要な視点を提供している。DVの本質と自動車産業の未来像について鶴原氏に話を聞いた。(前編/全2回)
■【前編】中国の急速な台頭で見落としてはいけない、自動車の「デジタルビークル」化が生み出す新たな競争軸(今回)
■【後編】先頭を走るのはやはりトヨタか? 「デジタルビークル」視点で占う自動車産業のこれからの勢力図
電動化に伴う自動車業界の変革とDX
──著書『ポストEVの競争軸 デジタルビークルの知られざる正体 人と対話するクルマの未来』では、デジタルビークル(DV)をポストEVの新たなる競争軸と位置付けられていますが、まずEVの現状についてどのように捉えていますか。
鶴原吉郎氏(以下敬称略) 従来のエンジン車からEVへの移行は、特にヨーロッパと中国が強引に進めてきました。
例えばヨーロッパでは、フォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件が大きな転換点となり、それまでCO2削減の主要技術として位置付けられていたクリーンディーゼルエンジンが一気に信頼を失いました。
その代替として、ハイブリッド車に対してより明確にゼロエミッションがうたえるEVを選択したのです。しかし、欧州メーカーは長らくハイブリッド車を手掛けてきた日本ほど電動化技術の蓄積がなく、バッテリーの供給などを中国や韓国の企業に頼らざるを得ないというのが実情です。
一方、2009年にアメリカを抜いて世界最大の自動車市場となった中国は、次の目標として2025年までに「自動車強国」になることを掲げました。しかし、当時は技術力や商品力で日米欧に劣っており、エンジン車では追いつくのが難しいと判断し、EVを新たな競争軸に位置付けたのです。
中国政府は数十兆円ともいわれる莫大な補助金を投じて、バッテリー産業やEV産業を育成しました。その結果、今や世界トップレベルの競争力を持つに至っています。特にバッテリー技術では、世界をリードする水準にまで達しています。
日本メーカーは、ハイブリッド車の開発でバッテリーやモーターといった電動化技術を培ってきたので、EVについてもスタート地点ですでに欧州メーカーに差をつけていました。しかし、グローバル市場でのEV競争においては、中国の急速な台頭に圧倒されているというのが現状です。