モータージャーナリスト 島下泰久氏(撮影:小宮和美)モータージャーナリスト 島下泰久氏(撮影:小宮和美)

 2024年上半期(1~6月)の新エネルギー車(EV+PHEV)世界販売台数で、中国自動車メーカー最大手の比亜迪(BYD)が米テスラを抑えてトップとなった。「日本のBEV(純電気自動車)は中国に敵わない」との評価もある中、日本の自動車メーカーはどのような戦略で対抗しようとしているのか──。2024年5月、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)を出版したモータージャーナリスト島下泰久氏は、「日本の自動車産業には、まだ勝機がある」と語る。2023年4月開催の上海モーターショーで中国メーカーの跳躍ぶりに衝撃を受け、1年近い取材を基に本書を綴った同氏に、日本の自動車メーカーの「現在地と勝機」について聞いた。(前編/全2回)

■【前編】初代シビックに通じる開発思想 ホンダの次世代BEV「ゼロ」シリーズが「いかにもホンダらしい」理由(今回)
■【後編】「絶対的な差をつけられる」と自信、ソニー・ホンダの「アフィーラ」に備わる「唯一無二の強み」とは(10月17日公開予定)

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急速に進化する新興自動車メーカーの脅威

──著書『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』では、「中国自動車メーカーの跳躍ぶり」と「日本の自動車メーカーの現在地」について解説しています。2024年春、日本国内でも俳優・長澤まさみさんを起用した中国BYDのCMが始まり、徐々に販売台数を伸ばしていますが、どのように捉えていますか。

島下 泰久/モータージャーナリスト

1972年神奈川県生まれ。立教大学法学部卒。自動車を主軸に専門誌をはじめ経済、テクノロジーなど幅広いメディアへ寄稿する。2024ー2025 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書『間違いだらけのクルマ選び』は2011年版から共著で、2016年版から単独で執筆し、最新刊は2024年版となる。YouTubeチャンネル「RIDE NOW ーSmart Mobility Reviewー」主宰。

島下泰久氏(以下敬称略) BYDのフラッグシップモデル「SEAL(シール)」は、2024年6月の発売から1カ月で累計受注台数が300台を超えました*1。これは相当に驚きの数字だと思います。

 実際に運転した印象としても、「走る・曲がる・止まる」というクルマとしての基本性能は、すでに従来メーカーのクルマに負けていないか、あるいは凌駕(りょうが)している部分すらあると感じました。

 また、「航続距離」「バッテリー容量」「充電スピード」といったBEVとしての基本性能も極めて高いレベルにあります。欧米や日本のメーカーよりもはるかに遅く参入してきた中国勢が、急速にクルマを進化させていることを実感します。

──著書では、2023年4月に開催された上海モーターショーを訪れた際、BEVについて「中国と日本の実力差を感じた」と述べています。具体的にはどのような差を感じたのでしょうか。

島下 走りに関する性能、そして航続距離や充電速度等々といったBEVとしての基本性能に関しては、日本車が中国メーカーのクルマに差を付けられているとは感じません。しかし、「バッテリーとモーターを生かして、どのようなクルマを作るか」という考え方に違いを感じました。クルマ作りの概念、立脚点、方向性のいずれも異なるのです。

 例えば、「バッテリーを搭載しているクルマであれば、こんなこともできるよね」と思い浮かぶようなことを、中国メーカーは遠慮なく、ちゅうちょなくやってのけます。今までのクルマの「文法」に則らない自由で先進的なことに果敢に挑もうとするチャレンジ精神を感じました。

 一方で日本の自動車メーカーのクルマというと、少なくとも当時は「今までのクルマのエンジンをバッテリーとモーターに置き換えたもの」という印象でした。だからこそ「これからの世界のクルマのトレンドをつくり出すのは中国ではないか」という脅威を感じたのです。

*1 BYD Auto Japan プレスリリースより(https://byd.co.jp/e-life/news/2024_0805_1.html