15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車主体の安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。
第8回は、政府の後押しにより急速にEVシフトが進む中国で、ガソリン車の余剰生産能力を持つ日系自動車メーカーの今後を考察する。各社が向き合うべきリスクとその対策とは。
円安メリットが大きく貢献した第1四半期決算
2024年度第1四半期(4~6月期)決算は、自動車メーカー9社の中では7社が増収・営業増益となった。営業増益の最大の原動力は多大な円安メリットであったが、日本車が得意とするハイブリッド車(HV)の人気回復も追い風となった。
トヨタ自動車(トヨタ)の営業利益は1.3兆円となり過去最高を更新した。営業利益は前年同期比で1875億円増加したが、最大の増益要因は円安メリット3700億円で、コスト増の2250億円を完全に吸収している。ドルは19円円安(137円→156円)、ユーロは18円円安(150円→168円)であった。
しかしながら、今後は日本の金利が上昇し、欧米の金利が低下するため円高が進行する可能性が高く、来期は円高デメリットが大きな減益要因になる可能性がある点に注意が必要だ。
本田技研工業(ホンダ)も営業利益が過去最高の4847億円(23%増)となった。円安メリット475億円やHVの販売好調が寄与した結果だが、後述するように中国での苦戦が今後の懸念材料になっている。
好調企業が多い中で大幅減益となったのが日産自動車だ。営業利益は赤字を回避したものの大幅減益の10億円となった。営業利益は前年同期比で1276億円減少した。円安メリット237億円はあったが、販売数量減などの影響が1104億円と大きな減益要因となった。
特に、主力の北米市場での販売不振が響いた。内田誠社長も「主力の米国で在庫が増加し、古いモデルでより高いインセンティブが必要になり、予想したよりも販売を伸ばすことができなかった。今後は新しいモデルを投入し、販売台数と収益の達成を目指す」と決算説明会で述べている。今後の回復は新車投入次第ということだが、当面は苦戦が続く可能性が高い。