写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 大変革期を迎えている自動車産業。最近やや伸び悩みの感はあるものの、EV市場は着実な成長を続けている。ハードウエアからソフトウエアへの価値のシフトも進行中だ。構造的な変化の中で自動車産業が大きな課題に直面していることは確かだが、同時に新たなチャンスを切り開こうとする動きも見られる。

 国内メーカーを中心に、自動車メーカーとサプライヤーの動向、戦略についてフーリハン・ローキーのシニアヴァイスプレジデント、平野恭広氏に聞いた。

ハードウエアからソフトウエアに価値がシフトする

 自動車産業は「100年に一度の変革期」にあると言われる。大きな変動のいわば「台風の目」に当たるのがEV(電気自動車)だろう。ただ、最近はEVの伸び悩みが指摘されている。例えば、EV市場をけん引してきたテスラの世界販売台数は2024年上半期、前期比6.6%減だった。

 とはいえ、市場全体が拡大していることは確かだ。2024年4月、国際エネルギー機関(IEA)はEVとPHV(プラグインハイブリッド車)の世界販売予測を発表。2024年の販売台数を前年比約2割増の1670万台と見込んでいる。

「ここ数年の高い伸び率を考えれば、EVは少し減速気味ですが、長期的に見るとEVの成長は間違いないでしょう。EV市場がさらに拡大していくための鍵となる、バッテリーコストの低減、充電施設などのインフラや中古車市場の整備等が進むにはもうしばらく時間を要すると思いますが、それらが整ってくれば再び以前のような成長スピードを取り戻す可能性もあります」と語るのは、フーリハン・ローキーのシニアヴァイスプレジデント、平野恭広氏である。
 
 自動車を巡っては、CASE(Connected, Autonomous/Automated, Shared, Electric)や、MaaS(Mobility as a Service)、SDV(Software Defined Vehicle)などのキーワードが飛び交っている。

 自動車の製品構造にすでに大きな影響を与えているのは、電動化とともにソフトウエア化ともいうべき動きだろう。SDVは自動車のソフトウエア化と言い換えてもいい。その他のキーワードも、ソフトウエアと密接に関係している。

「自動車の価値は、ハードウエアからソフトウエアにシフトしつつあります。ソフトウエアを通じて、ユーザーのニーズを素早く製品に反映することができる。これに伴い、製品開発の在り方も大きく変わります」と平野氏は言う。
 
 近年、多くの企業がDXへの取り組みを本格化しており、ソフトウエア技術者は不足している。自動車メーカーやサプライヤーも人材獲得、離職抑止などに苦労しているようだ。

「重要なポイントは、技術者にとって魅力的な開発環境だと思います。そのためには、開発スピードを速くする必要があるでしょう。また、技術者に対するマネジメントスタイルを、人事評価制度などを含めて見直す必要があるかもしれません」(平野氏)

 ハードウエア技術者に比べて、ソフトウエア技術者の流動性は高く、労働市場における給与水準の幅も広い。「日本的経営」との親和性は低いと考えられるだけに、自動車メーカーやサプライヤーにとって、ソフトウエア技術者のマネジメントは大きなチャレンジとなるだろう。