15年後に生き残れるのは、どのような自動車メーカーなのか? 脱炭素化、AI普及など、世界が「ニューノーマル」(新常態)に突入し、ガソリンエンジン車という安定した収益構造を維持できなくなった企業が考えるべき新たな戦略とは? シティグループ証券などで自動車産業のアナリストを長年務めてきた松島憲之氏が、産業構造の大転換、そして日本と世界の自動車メーカーの、生き残りをかけた最新のビジネスモデルや技術戦略を解説する。
第2回は、世界で進む環境規制の強化などにより、自動車産業に求められる技術、生産方法、そしてビジネスモデルの変革について解説する。
ESG投資は「リスクとリターン」から「社会的インパクト」へ
自動車メーカーにとって、バッテリーEV(BEV:電気のみをエネルギー源として走行する車)は重要な未来技術だが、今のところほとんどの自動車メーカーでは赤字で収益源にはなっていない。しかしながら、プラグインハイブリッド車(PHV)も含めたEVの世界市場は2025年には3000万台に達するとの予想もあり、これからBEV市場が大きく拡大するのは確かであろう。
これほどEVが注目されているのは、言うまでもなく先進諸国を中心に環境規制が強化されているからだ。
地球温暖化が現実化している中で、環境規制は今後もますます強化されていくだろう。気候変動対応のための環境規制強化の流れは欧州が先行するが、バイデン政権が発足後すぐにパリ協定に復帰したことでも明らかなように、米国も規制強化に動き始め、BEVの米国内生産に対する後押しを強力に進めている。中途半端な戦略しか示せねば日本は明らかに後手に回るだろう。
少し過去を振り返ろう。米カリフォルニア州では、BEVや燃料電池車(FCV)などのゼロエミッションビークル(ZEV)をある一定数販売しなければならない法律を定めた。達成できない自動車メーカーは、達成しているテスラなどのBEVメーカーからZEVクレジットを入手して対応していた。
HVはZEV対象外となっているため、BEV実用化に出遅れた日本メーカーは、BEVベンチャーなどからクレジットを購入していたのである。テスラなどの先行企業にとっては、ZEVクレジット取引が利益の源泉となっていた。今後は各自動車メーカーがBEV生産を本格化するので、テスラなどが獲得していたクレジットからの収益は減少する。
欧州でも、EUが乗用車のCO2排出量を1km当たり95グラムとする規制を2021年から導入した。特に大型モデルが主力の自動車メーカーにとっては、相当ハードルが高い規制であった。もちろん、達成できない場合は課徴金が課せられる。現時点では、無理やりにでもBEVを生産して影響を薄めるというのが、欧州の自動車メーカーの戦略となってきている。
従来の常識が壊れる新常態では、考えもしなかった変化が大きな波となる。急速に機運が高まった気候変動への対応では、再生可能エネルギーを活用した生産や物流へのシフトを強引にでも行なわねばならない。
資本市場の投資手法も大きく変化しており、重要性と影響力が高まっているESG投資では、従来のリスクとリターンという二次元の投資から、社会的インパクトを考慮した三次元の投資にシフトしている。ここで求められるのは単なる投資効率の追求ではなく、環境や社会への貢献を考慮した稼ぎ方改革と持続的成長なのである。