cjmac/Shutterstock.com

 世界的なスキーリゾート地であるニセコ。北海道の最大都市・札幌から自動車で2時間ほどの小さな町のパウダースノーが世界中の人々を魅了し、今や世界最高峰ホテルや高級コンドミニアムが立ち並ぶリゾート地となっている。「小さな世界都市」を標榜するニセコは、海外から多くの旅行者や移住者を受け入れる一方で、独自の景観条例を設けて乱開発を認めず、住民と事業者との緩やかな合意形成を前提とした持続的な町づくりに取り組んでいる。本稿では、ラグジュアリージャパン観光推進機構のウェビナーの中で明らかになった「ニセコのインバウンド戦略」について迫る。

本稿は、2023年11月30日に開催されたラグジュアリージャパン観光推進機構主催「第7回 富裕層観光戦略ウェビナー」の講演「小さな世界都市 ニセコのインバウンド戦略」の内容を採録したものです。

世界的な人気を誇るリゾート地「ニセコ」の今

片山 健也/ニセコ町長

1953年、北海道生まれ。東洋大学法学部卒。民間会社を経て、ニセコ町役場入庁。職員時代に札幌大学法学部及び同大学院法学研究科非常勤講師、国土交通省地域振興アドバイザーなどを務める。2009年、ニセコ町長就任。現在、国民保養温泉地協議会会長、全国首長連携交流会共同代表等。

 世界的に注目されているスキーリゾート地のニセコ観光圏は、ニセコ町・倶知安(くっちゃん)町・蘭越(らんこし)町の3つの町で構成されている。そのうちニセコ町の町長である片山健也氏はニセコの現状について次のように説明する。

「ニセコの人口は約5000人、うち海外からの移住者が約500人となっている。海外からの移住者は、以前はイギリスからが主であったが、現在はオーストラリア、英国、米国、アジアなど34カ国から移住してきている」

出所:ラグジュアリージャパン観光推進機構「ニセコ町の観光の取り組み」
拡大画像表示

 ニセコといえばパウダースノーが有名だが、冬だけでなく四季折々で楽しめる恵まれた自然が特徴だ。例えば、一級河川に選ばれた水質の良い尻別川でのラフティングや、北海道を代表する名山・羊蹄山の登山なども高い人気を誇る。近年はインバウンド効果もあり夏も冬と同じくらいの観光客が訪れるという。

 世界の富裕層が注目するリゾート地とあって、2020年には倶知安町に「パークハイアットニセコHANAZONO」、ニセコ町に「東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブ」が開業。また、近々、ニセコ町の藻岩地区での「アマンニセコ」の着工が予定されている。

 海外資本を続々と受け入れている印象があるものの、乱開発を認めているわけではない。ニセコは独自の景観条例を設けて、事業者に建設前の住民説明会の実施を義務付けるなど、事業者と住民との緩やかな合意形成を前提とした町づくりを行っている。

 このことからも伺えるように、ニセコでは、町づくりに関して情報共有と住民参加を徹底して行うとしている。それは、住民自治をしっかり機能させるためだ。

 実は、ニセコは日本で初めて自治基本条例を制定した町でもある。住民が自ら考え行動するという住民自治の考えが根付いている町でもあるのだ。