アメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、そして日本の33人のエリート層から見た日本の長所、短所の指摘、そして日本人の内向き志向=「ジャパニズム」への強い危機感を訴える『日本はなぜ世界から取り残されたのか』(PHP新書)。著者のサム田渕氏は、1980年代に渡米して米フロリダ州で就職し、日本およびアジアからのフロリダへの外国直接投資促進や米代表通商部(USTR)の特別補佐官として通商産業省(当時)との交渉で活躍した。
米国籍を持つ田渕氏が、前編に続き「外から見た日本の強みと弱み」を母国愛を込めて語る。(後編/全2回)
■【前編】日本のリーダー層に決定的に欠けている学びとは? 世界のエリート33人に聞いた「日本衰退の要因」
■【後編】知事の言葉が人生の指針に、東洋大名誉教授サム田渕氏がフロリダで学んだ日本人に足りない「正しいことをやる」精神(今回)
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「国を愛してもいい、だが信じるな」と言った恩師
――サム田渕さんはこの本の前書きの冒頭に、「国を愛してもいい、しかし、絶対に信用してはいけない」という、恩師である野田一夫先生(経営学者、2022年没、立教大学教授、多摩大学、宮城大学、日本総合研究所創設者)の言葉を引いています。
サム田渕氏(以下敬称略、田渕) 立教大学の学生としてこの言葉を聞いた時は、実は私もその真意がつかめませんでした。
その後、私が米フロリダ州政府の知事室で働いていたときに、アスキュー知事(ルービン・アスキュー氏、 1971年にフロリダ州知事に就任、1979年まで務め、1980年にはカーター政権でUSTR代表)主催のミーティングで、州の要人を前に自己紹介をする機会がありました。
本にも書いた話ですが、緊張して、「私はアスキュー知事のため(work for)に働いています」と言ったところ、知事が立ち上がって「サム、君は私のために働いているんじゃない、フロリダ州と州の人々のために働いているんだ」と言いました。そして「私もそうだ」と。
これには震えるくらい感動しました。この言葉はその後10年間、公僕としてフロリダ州で働く自分にとっての道しるべになりました。
アスキュー知事から教えられたのはこの国に根付く「Do the right thing」、正しいことをやる、という精神だと思います。彼は知事に立候補する際に「太陽の光修正案(Sunshine Amendment)」を公約の一つにしていました。州政府のすべての資料、ドキュメントをすべての州民が読むことができるようにする、というものです。
政治に不透明さは付き物で、フロリダ州でもそうでした。しかし、公共の書類をオープンにすることで、「隠しごとのない政治」を実現すると約束したのです。さらに、選挙で選ばれた政治家がどのレベルであれ2人以上集まる際は、メディアにそれを報告する義務を課しました。密室で物事を決めてはならない、ということを法制化したのです。いただくギフト(お土産)は、100ドル以上は全て州に報告する義務付けもしました。
どのように判断して法律を制定したか、意思決定を行ったかについて、政治家は常に説明責任を持つ、ということが明確になり、汚職が減り、透明性が向上しました。背景にあったのはアスキュー知事の「州民の信頼を得るには、州の政治の透明性が必須」という哲学です。
振り返ってアメリカの建国当時を考えてみると、初代大統領のジョージ・ワシントンも、政府が国民の信頼を得ることが民主主義の発展のカギであり、そのためには預かった税金の使途が透明であることが必要だ、と考えていました。
政治は、市民に信頼されるために透明性を保たねばならない。市民は、たとえ国を愛していても、その政治が公正に行われているか、常に確認せねばならない。先生がおっしゃっているのはそういうことだと思います。だから、民主主義が成立するには情報公開が必須となりますし、それは政府に任せるのではなく、市民の側から常に要求するべきことでもある、と言えます。