2012年にプロサッカークラブ、川崎フロンターレの監督に就任し、後の優勝につながるチームの土台を築いた風間八宏(かざま・やひろ)氏。その後、セレッソ大阪ではアカデミー技術委員長を務め、史上初のクラブユース選手権3冠達成に導くなど、指導者としての実績を積み上げてきた。独自の選手育成理論は「風間メソッド」として知られサッカー界以外からも注目を集める。風間メソッドはいかにして作られたのか、その源流を探る。(前編/全2回)
まず「自分から希望を語らせる」
――風間さんが初めて監督を務めたのは、桐蔭横浜大学サッカー部でした。部として本格的に活動を開始した1998年に就任し、同年に県リーグ1部昇格、その2年後に1部優勝を果たしました。
風間八宏氏(以下敬称略) それまで同好会レベルだったチームを本格的な部にするということで、監督の依頼が来ました。私がまず行ったのは、選手の「モチベーションの引き上げ」です。というのも、選手の多くは部になることに決して前向きではありませんでした。高校までサッカー部に所属してきた者が多く、「練習がきついだけで楽しくなかった。大学では(部にならず)このままがいい」という声もあったのです。
――どうモチベーションを上げたのですか。
風間 これは全てのチームで必ず私が行うことなのですが、まず選手一人一人と面談して、「何をしたいか」「どうなりたいか」という希望を聞きます。私が要望を出すのではなく、あくまで選手の希望を話してもらいます。それに対して、私は「十分その希望を達成できると思う」「もっと上を目指せる」など、期待のみを伝えます。
なぜなら、自分でやりたいことならブレないからです。ある種目を練習するにも、自分が望んでやるのとやらされるのでは違います。自ら望んでやるなら、自然と練習も日々変わります。選手の意識だけでそれだけの違いが出ますし、やらされていると感じるなら辞めろと言います。
私は「メンタルなんてない」とよく言いますが、人のせいにしなければ悩むことも減ります。自分が明日何をすれば良いかだけを考えるからです。人のせいにすると、解決できないことが増えるから悩むのです。
「人のせいにしない」「もののせいにしない」これだけは選手と約束しますね。自分のせいにすれば、自己努力で改善できます。たとえ実際はそのミスに自分以外の影響があったとしても、自分のせいにする。そう考えないと、自分がもっとうまくなろう、自分自身の何かを直そうという動きが起きず、本人の成長につながりません。
桐蔭横浜大の選手から「今までサッカーでつらい思いをしてきた」という話を聞きましたが、要因の一つに考えられるのは、サッカーをやらされている意識が強すぎたことです。無理やり走らされたり、自分が納得しないまま何かの練習をさせられたり。彼らはどうすればうまくなり、前に進めるのかが分からなくなっていたように感じました。ですから、私が桐蔭横浜大の監督になった時、選手には「君たちの今までの歴史と一緒にするな、一回練習に来てみろ」と言いました。