オリンピックで2度のメダルを獲得した日本アーチェリー界の第一人者・山本博氏。指導者としても大宮開成高校をインターハイ優勝に、日本体育大学をインカレ優勝に導くなど、大きな足跡を残している。勝ち負けがシビアに表れるスポーツの世界で、選手一人一人のモチベーションを維持し、目標に向かわせるためにどんなコミュニケーションを心掛けているのか。個人競技であるアーチェリーで「チーム」としての意識をどう持たせているのか。前編に続くインタビューの後編では、山本氏の「指導論」にフォーカスする。(後編/全2回)
指導者に求められる「伝える力」
――山本さんは、指導者としてもアーチェリー界に大きな足跡を残してきました。普段の指導において心掛けていることはありますか。
山本博氏(以下敬称略) ここ(日本体育大学)には、高校時代にトップクラスの戦績を残したエリート選手たちが集まります。当然、「ここの環境なら自分はもっと上達できる」という自分への期待も高い。でも、なかなか結果が出ず、「こんなはずではなかった」とモチベーションが下がってしまう選手はいくらでもいます。選手はどうしても周囲と自分とを比較しますから、自分より優秀な結果を出している選手を見ると落ち込んでしまうものです。
彼らのモチベーションを維持するためにも、時には動画や、アプリなどを通じて得られるデータを示しながら「ここは悪くないよ」「ここに原因があると思うよ」などとアドバイスするようにしています。
また、今の若い選手は指導の入口の段階で「なぜその練習をしなければいけないのか」と疑問を持つことが多い。相手が納得してアドバイスを受け入れるためにも、客観的な映像やデータが有効です。ただ、繰り返しになりますが、データというのは答えがたくさんある中で一番多かったものを示しているにすぎないので、自分にとっての最適な答えは、最後は自分で見つけなければいけません(前編参照)。
どんなに指導者が優れたアドバイスをしても、どんなにデジタル技術を駆使しても、気が付かない選手は気が付かないし、受け入れない選手は受け入れない。そうして弓を置いてしまう選手をたくさん見てきました。