
長年にわたり日本の女子サッカー界をけん引した澤穂希氏。日本代表が世界一をつかんだ際にはキャプテンも務めた同氏だが、キャリアの最晩年では、代表チームのスタメンから外れるケースも増えた。一時はその状況に悩んだものの、自身の役割を捉え直し、新たな形でチームに貢献していったという。澤氏は何をしたのか。Japan Innovation Review特別編集員の端谷祐人が聞き手となり、澤氏の言葉から、キャリアの転換期を迎えたリーダーの在り方についてヒントを探る。
目標が一致しているから、チームの議論がまとまる
端谷祐人 日本代表が優勝した2011年の FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会では、澤さんがキャプテンを務めました。多様なチームメンバーが一丸となって戦うために心掛けていたことはありますか。
澤穂希氏(以下敬称略) 「目標の共有」と「コミュニケーション」を大切にしていました。まず前者ですが、全員が同じ目標ラインに立つことが何より重要で、仮に優勝を目指す人とベスト4を目指す人が混ざると、チームのバランスが悪くなり、目標達成に向けたプロセスもバラバラになってしまいます。対して、全員で目標を共有すればチームコンセプトが明確になり、攻撃や守備でそれぞれ何をすべきか分かりやすくなります。
2008年の北京五輪では、佐々木(則夫)監督が「ベスト4を目指そう」と言って、それを実現できました。そこで2011年の時は、明確に「世界一を目指す」という目標を立て、全員が同じラインに立つところから始めました。その目標を達成するために何をするか逆算していきました。
当時のチームでは、細かく決まりごとを設けるケースもあれば、場面によって選手個々の自主性に任せていた部分もありました。どちらにしても、軸となる目標やコンセプトが全員一致しているので、日ごとに質が上がっていきました。
端谷 もう一つの「コミュニケーション」については、どのようなことを行っていましたか。