アーチェリー選手の山本 博氏(撮影:山口絋)

 70メートル先の直径122センチの標的を射抜く。手元のわずかなブレが、数十センチもの誤差を生むアーチェリーの世界で、山本博氏は61歳の今もなお現役選手として競技の場に立ち続けている。アテネ五輪で銀メダルを獲得し「中年の星」と称えられてからすでに20年。ビジネスの現場と同様、その間、環境と時代は幾度も変化した。その変化も味方につけて活躍を続ける、山本氏の発想法を聞いた。(前編/全2回)

モチベーションとは自分への期待

――アーチェリー選手として頂点を極めた山本さんが、還暦を過ぎた今も現役を続けていることに驚かされます。

山本 博/アーチェリー選手

横浜市立保土ヶ谷中学校1年からアーチェリーを始め、学生時代はインターハイ3連覇、インカレ4連覇。日本体育大学在学中にロサンゼルス五輪で銅メダルを獲得し、2004年のアテネ五輪では41歳で銀メダルを獲得した。オリンピック5大会に出場。現在は日本体育大学教授 博士(医学)、東京都スポーツ協会会長、東京オリンピック・パラリンピック競技委員会顧問会議顧問。2016年には右肩の筋断裂の手術を受け、2020年には右腕のしびれに悩まされ、「胸郭出口症候群」と診断されるも、左右の第一肋骨を切除する手術を受け、現在も現役選手として活躍する。

山本博氏(以下敬称略) 先日ちょうど国民スポーツ大会の東京都選考会があったのですが、このレベルの大会では人生初の3位通過でした。自分はここまで落ちてきているか、と…悔しいし、情けないですね。

 今日は朝病院に行って診察してもらって、このインタビューの直前までここ(日本体育大学)で練習していました。体がギブアップしない限りは現役を続けるつもりです。

――現役を続けるモチベーションはどこから来るのでしょうか。

山本 モチベーションというのは、すなわち自分への期待ですよね。まだ選手として上昇する可能性があると期待しているんです。「こういうことができればまだ戦えるな」という明確なイメージがある。

 これまで積み重ねてきた経験や、体の調子などを見ながら、「今日の練習ではこんなことをやってみたらどうだろう?」と仮説を立て、実行する。それを繰り返すことで、次の本戦では1位、2位通過の選手を圧倒できるのではないか──そう自分に期待しながら日々練習しています。