70メートル先の直径122センチの標的を射抜く。手元のわずかなブレが、数十センチもの誤差を生むアーチェリーの世界で、山本博氏は61歳の今もなお現役選手として競技の場に立ち続けている。アテネ五輪で銀メダルを獲得し「中年の星」と称えられてからすでに20年。ビジネスの現場と同様、その間、環境と時代は幾度も変化した。その変化も味方につけて活躍を続ける、山本氏の発想法を聞いた。(前編/全2回)
シリーズ「スポーツに学ぶ『変革の流儀』」
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モチベーションとは自分への期待
――アーチェリー選手として頂点を極めた山本さんが、還暦を過ぎた今も現役を続けていることに驚かされます。
山本博氏(以下敬称略) 先日ちょうど国民スポーツ大会の東京都選考会があったのですが、このレベルの大会では人生初の3位通過でした。自分はここまで落ちてきているか、と…悔しいし、情けないですね。
今日は朝病院に行って診察してもらって、このインタビューの直前までここ(日本体育大学)で練習していました。体がギブアップしない限りは現役を続けるつもりです。
――現役を続けるモチベーションはどこから来るのでしょうか。
山本 モチベーションというのは、すなわち自分への期待ですよね。まだ選手として上昇する可能性があると期待しているんです。「こういうことができればまだ戦えるな」という明確なイメージがある。
これまで積み重ねてきた経験や、体の調子などを見ながら、「今日の練習ではこんなことをやってみたらどうだろう?」と仮説を立て、実行する。それを繰り返すことで、次の本戦では1位、2位通過の選手を圧倒できるのではないか──そう自分に期待しながら日々練習しています。