讃岐うどん専門店「丸亀製麺」などを運営するトリドールホールディングス(以下、トリドール)。同社では2021年から全社的なDXを進め、短期間でレガシーシステムからフルクラウドへの移行を実現。AIを活用した店舗マネジメントの効率化や自動化などにも取り組んでいる。同社のDXをけん引するCIO兼CTOの磯村康典氏と、デジタルシフトウェーブ社長の鈴木康弘氏がオンラインセミナー「SMBC Group Digital FES 2024」(主催:三井住友フィナンシャルグループ、プラリタウン)で語った、トリドールのDXの進め方、DXを成功させるポイントなどについてレポートする。
デジタル基盤を整えて「食の感動」創出へ。2つのDXビジョン
「食の感動で、この星を満たせ。」というスローガンを掲げるトリドールは、丸亀製麺をはじめとする約20のブランドで30の国と地域 に約2000店舗を展開。2022年は売上高1883億円を記録した。
磯村氏がCIOに着任した2019年当時、同社では「レガシーシステム」に由来する課題を抱えていた。
レガシーシステムとは、メインフレーム(汎用機)やオフコンなど旧来の技術基盤により構築されているシステムを指す。同社の既存システムには主に「統合型業務システムのサイロ化」「内製したシステムの品質劣化」「IT基盤の老朽化」という3つの課題が存在した。
磯村氏はこれらの課題解決に向けて「ITロードマップ」を作成し、2021年初頭に「トリドールDXビジョン2022」をスタートさせた。重点的に取り組んだのは以下の3点だ。
(1)全てのレガシーシステムを廃止し、SaaSとサブスクリプションを組み合わせたフルクラウドシステムに移行
(2)ゼロトラストセキュリティーの実現
(3)コールセンター、経理などの定型的なバックオフィス業務はBPO(Business Process Outsourcing)を活用
現在は計画の9割方を終えているという。
「トリドールDXビジョン2022」に続く計画「トリドールDXビジョン2028」には、「食の感動体験を提供する」というミッションと、ビジョンとして掲げた「グローバルフードカンパニー」の実現に向けたデジタル施策を盛り込んだ。
まず、レガシー上のPOS(Point of Sales:販売時点情報管理)システムをクラウドPOSに入れ替えた。これにより、インターネットとの親和性が高まり、フードデリバリーサービスやモバイルオーダーへの対応が容易になった。コロナ禍によるデリバリー需要の増加も追い風となった。
DX基盤も進化・強化させる。SaaS間のデータ連携プラットフォームを構築し、「ゼロトラスト」に基づいたセキュリティー対策の導入、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証をはじめとする各種情報セキュリティー認証の取得、サイバーセキュリティーの最新情報を収集・分析する脅威インテリジェンスの導入も行った。
また、店舗での調理・接客に従業員が集中できるよう、店舗マネジメント業務を徹底的に自動化した。具体的には、シフト表作成、食材発注、麺投入のタイミングを計る「投入表」などに、SaaSのAI需要予測システムを導入している。水道・電力使用量のコントロールにも同様のシステムを活用している。
こうした施策について、磯村氏は「ここまでは特にスピードを意識してやってきました」と語った。デジタルシフトウェーブの鈴木氏は「IT基盤が老朽化していた状況から、4年半でここまでDXを推進したのは驚異的」としながら、「明確な経営の方向性のもと、『現場が本来の接客業務に集中できる環境をつくる』という目的があることで、実現可能になっているのではないでしょうか」と指摘した。