キッコーマン代表取締役社長CEOの中野祥三郎氏(撮影:内海裕之)

 海外事業の拡大がけん引する形で、2024年3月期に純利益で11期連続最高益を見込むキッコーマン。創業から約350年、会社設立から100年以上の歴史を持つ長寿企業でありながら、成長し続けられる秘訣について、同社の代表取締役社長CEOの中野祥三郎氏に話を聞いた。

海外で成功の鍵を握る「レシピ開発」

――2023年6月に社長COOから社長CEOに就任されましたが、新経営体制になって重点的に取り組んできたことは何でしょうか。

中野 祥三郎/キッコーマン代表取締役社長CEO

1957年千葉県出身。1981年慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、キッコーマン入社。国内営業を経て、1987年にアメリカのしょうゆ販売会社へ出向。2008年執行役員経営企画部長に就任。2011年常務執行役員、2012年CFO(最高財務責任者)、2015年取締役常務執行役員、2019年キッコーマン食品社長(現任)、2021年キッコーマン代表取締役社長 COOなどを経て、2023年6月より現職。
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中野祥三郎氏(以下、敬称略) 仕事の中身自体はそれまでと大きく変わっていませんし、引き続き中長期的な視点からキッコーマンのあるべき姿を考えていきたいと思っています。

 2021年に社長COOのポジションに就いた時はコロナ禍の真っただ中で、海外出張などに行けなくなった時間を有意義に使うため、月に2回ほど各部署の所属長としっかり対話する場を設けました。

 各部署の所属長10~15人が集まって、それぞれの職場で実現したいことや人材育成の方法などについて意見を出し合い、共有するようにしたのです。その内容を各部署に持ち帰り、どんな仕事をして社会に貢献していくのか、社員一人一人にも改めて考えてもらいました。現在はコロナ禍が明けたため中断していますが、定期的に社員のエンゲージメントに関する調査も行って、課題の多い職場については改善策を発表する場を設けています。

 私自身も地方出張などの際には、社員たちと積極的にコミュニケーションを取るよう努めています。社員と直接コミュニケーションを取る場では直属の上司を挟まず、率直な意見を聞くことで、さまざまな気付きが得られることもあります。

――2024年3月期には純利益で11期連続最高益を更新する見込みです。特にコロナ禍でも好調な業績を維持できた秘訣は何でしょうか。

中野 コロナの時は最初に海外の売り上げに影響が出始めて、次に国内にも影響が出てきました。ただ、当社の場合は事業の柱として業務用と家庭用製品の2本柱があるので、外食需要が落ちても巣ごもり需要で家庭でのしょうゆの消費が増えていました。

 そこで、国内でも海外でもレシピの提案に力を入れるようにしました。その結果、調味料としてある程度しょうゆが浸透している米国はもちろん、欧州でも販売を伸ばすことができました。

キッコーマンのしょうゆ商品

――海外、特に欧米では日本食ブームが起きており、その影響も大きいのではないでしょうか。

中野 その影響も多少あるとは思いますが、われわれとしては日本食にしょうゆを使ってもらうのではなく、現地の料理にいかにしょうゆを使ってもらうかという点を意識して取り組んでいます。それは、1957年に米国に販売会社を設立したときからずっと変わりません。調味料は家庭でも飲食店でも料理に使われて初めて浸透していくので、消費者に受け入れられるまでに時間がかかるのです。

 米国進出当時は今のようにSNSも普及していなかったので、現地の料理研究家と相談しながらしょうゆを使ったレシピを考えて、新聞や雑誌などで紹介してもらっていました。

 例えば、しょうゆを肉に漬け込んでバーベキューに使ったり、その後、テリヤキバーガーが生まれてそれが日本でも人気になったりと、食文化の交流から新しいものが創造されるのが面白いところです。他の地域でも同様に、基本的にはレシピ開発からスタートし、時間をかけて現地に浸透させるやり方をとっています。

アメリカのしょうゆ販売会社で提案しているレシピ「鶏もも肉のテリヤキ」
アメリカのしょうゆ販売会社で提案しているレシピ「七面鳥の胸肉のロースト」

――食文化が豊かな欧州では、米国よりさらにしょうゆを浸透させるのに苦労したのではないですか。

中野 確かに欧州は自国の食文化への誇りが強いため、入り込みにくいところはありました。しかし、徐々に飲食店のシェフが使い出すようになり、新たな料理の形を生み出していくことで浸透し、今では飲食店の客席に普通にしょうゆが置かれる状態になっています。