「このままだと5年以内にカスミは潰れる。“次の10年の成長に向け新たな食品スーパーの事業モデル“をつくって欲しい」――。茨城県を中心に食品スーパーを運営するカスミの常務取締役・満行光史郎氏は、入社前の面談でこんな言葉をかけられたという。満行氏はデロイトトーマツやKPMGといったコンサルティングファーム勤務を経て、日清食品のインドネシア現地法人で5年間取締役を務め、2019年にカスミに入社。そんな満行氏にカスミが託したのは、従来のビジネスモデルにとらわれない「新たな食品スーパー業」の構築。その成果として、同社は2022年1月に「BLΛNDE(ブランデ)つくば並木店」、同2月に「研究学園店」(茨城県つくば市)を相次いでオープン。両店舗とも、売上高は好調に推移しているという。ブランデとはどのような食品スーパーなのか。満行氏に話を聞いた。
本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年8月24日)※内容は掲載当時のもの
いつまでも「チェーンストア理論」でいいのか?
――新たな事業モデルの構築を目指して、ブランデをオープンされました。そもそも、既存の食品スーパーの課題はどのようなところにあるのでしょうか。
満行光史郎氏(以下、敬称略) これまで、日本の食品スーパーは、チェーンストア理論(注:本部で中央集権的に価格設定権などの経営資源を握り、店舗はオペレーションに専念する、経営効率の最大化を目指す理論)に基づいた経営戦略だけが「正解」とされ、黎明期から大袈裟に言えば今日まで、変わらない手法で事業を運営してきました。
しかし、2010年代後半から、この事業モデルに暗雲が垂れ込みます。ドラッグストアやEC事業者など、異業種が食品の販売に乗り出したほか、消費者も「手軽に食べたい」という欲求から中食を多く利用し始めるなど、競争環境が大きく変化しました。食品スーパーは、これまでの経営手法を採用し続けているだけではお客様にそっぽを向かれる、という現実に気づいたのです。同じような鮮度の商品を毎日並べ、同じようなサービスを展開し続けるだけでは、生き残れないと。
カスミもその例外ではありません。私がカスミに入社した2019年度は過去数年間で最も厳しい業績となりました。お客様のライフスタイルやニーズの変化に対応した食品スーパーを運営しなければ、事業の存続すら危うい、という危機感がありました。そこで、「次の10年の成長に向けた新業態の開発」を合言葉に、新たな技術や商品政策を導入した、新コンセプトの店舗、ブランデをオープンさせたのです。