富士フイルムホールディングス 執行役員 CDO ICT戦略部長の杉本征剛氏(撮影:川口紘)

シリーズ「DX人材」
今企業には「DX人材」、すなわちデジタル技術を武器に業務を見直し、事業を創り、そして企業を変革していく者が必要だ。本特集では、DX人材の育成にチャレンジングに取り組む企業を取材し、各社の育成におけるコンセプトやメソッドを学んでいく。

第1回 豊田合成
第2回 住友重機械工業
第3回 ジェイテクト
第4回 デンソー

第5回 花王
第6回 帝人
■第7回 富士フイルムホールディングス ※本稿
第8回 キヤノン(前編)
第9回 キヤノン(後編)
第10回  神戸製鋼


<今後の掲載予定企業>
ブリヂストン、東洋紡、アイシン
※掲載企業は変更になる可能性があります。

 デジカメの普及による写真フィルム 市場の衰退を乗り越え、業態転換に成功。複数の事業分野を軌道に乗せている富士フイルムグループ。現在は、2030年をターゲットにした社会エコシステム構築のために必要な、次世代のDX人材育成に注力する。キーワードは「つまみ上げ」と「ハイブリッド」だという。どのような人材育成を行おうとしているのか、執行役員 CDO ICT戦略部長の杉本征剛氏に聞いた。

製品のデジタル化の先にある、真のDX

——富士フイルムは、写真フィルム がデジカメに取って代わるなか、大きな事業変革に成功しました。その要因はどこにあったのでしょうか。

杉本 征剛/富士フイルムホールディングス 執行役員 CDO ICT戦略部長 兼 イメージング・インフォマティクスラボ長

1989年九州大学大学院 総合理工学研究所 情報システム学専攻修了後、富士写真フイルム株式会社(現 富士フイルム)入社。入社後はシステム開発分野、AI/ICT研究分野に従事。 2019年ICT戦略推進室長(現 ICT戦略部長)およびインフォマティクス研究所長(現 イメージング・インフォマティクスラボ長)に就任。20年4月より現職。

杉本征剛氏(以下敬称略) 富士フイルムグループは複数事業の集合体であるコングロマリットとして、長年事業を継続しています。デジタルカメラが本格的に普及したのは2000年以降ですが、1980年代の後半から、当時の3大事業領域である写真、医療、印刷分野において、アナログからデジタルへの変革を見越した取り組みを進めてきました。例えば、医療分野ではデジタルX線機器、印刷ではデジタルプレス、そしてカメラやラボ機器のデジタル化などです。

 この時代に進めた事業変革は、いわゆる「デジタイゼーション(デジタル化)」です。業務分野では、特定の組織や範囲内のアナログ的な作業に対し、デジタル化を段階的に推進しました。基幹システムやそれらを統合するシステムの導入、クライアントサーバー型のグループウェアの導入なども行っています。製品分野では、先にご紹介したようにアナログの情報をデジタル化するためにデジタル技術を導入していたのです。

——では現在、富士フイルムが進めているDXは、これまでと違うアプローチが必要ということですか。

杉本 当社グループのDX推進アプローチを正しく選択し、それを軌道に乗せるためには、従来のデジタイゼーションと今回のDXの違いを明確にしておくことが重要だと思っています。

 その違いを明確にするための1つの指針として、経済産業省が公開しているDX推進ガイドラインやレポート、デジタルガバナンス・コードなどを参考にしてきました。現時点では、DXを通して社会課題を解決し、グローバル競争力の向上と持続的発展への貢献をしていくこと、自社の事業構造だけでなく、産業構造変革を目指すことを目標に掲げています。

 この目標に対して、当社グループがまずすべきことは、社会課題の解決、グローバル競争力の向上と持続的発展への貢献につながる製品・サービスのさらなる強化です。その実現に向け、DXロードマップを定め、リカーリングビジネスやビジネスエコシステムを実現するための、デジタルプラットフォームの構築を行っています。

 製品・サービスやデジタルプラットフォームの構築を進めるには、それに必要な従業員のリソースを確保する必要があります。そのために、業務のデジタル変革による飛躍的な生産性向上を目指しています。

 業務の徹底的な断捨離によってムダを省き、残る業務を精査しながらデジタル化、自動化することで、従業員リソースをクリエイティブな業務へシフトしていく。製品・サービスと業務のデジタル変革は、両輪として進めなければならないと思います。この両輪を支えるのが、DX人材です。