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作家/ワークスタイル&組織開発専門家 『組織変革Lab』主宰/あまねキャリア代表取締役CEO 沢渡 あまね氏
渋谷区グローバル拠点都市推進課 課長 田坂 克郎氏
vivola株式会社 代表取締役CEO 角田 夕香里氏
株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 経営企画本部 担当本部長 野田 勝義氏

 SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を実現するための重要なキーワードとして「協創」がある。社会課題を解決するためには、専門性や立場の異なる人たちが同じ方向をめざし、化学反応を繰り返すことで新しい可能性を生み出していくことが求められる。2024年8月29日に開催されたオンラインセミナー「SXのもとに集おう~協創とテクノロジーで次世代へ繋ぐサステナブルな社会~」(主催:JBpress/Japan Innovation Review、協力:株式会社日立ソリューションズ)では、SXの現場を知る組織開発専門家の沢渡あまね氏がモデレーターを務め、渋谷区グローバル拠点都市推進課 課長 田坂 克郎氏、vivola 代表取締役CEO 角田 夕香里氏、日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 経営企画本部 担当本部長 野田 勝義氏の3者と共に、それぞれの立場で向き合っている社会課題や、そのためのSXの取組みについて語り合った。

組織の枠を超えた「協創」で進めるSXの取り組み

「組織の枠を超えたSXはどうすれば進められるのか」。壮大なテーマを掲げたパネルディスカッションでモデレーターを務めたのは、400を超える組織変革を支援した実績があり、「景色を変えて組織を変える、協創のためには越境が必要」と唱える沢渡あまね氏だ。


作家/ワークスタイル&組織開発専門家 『組織変革Lab』主宰/あまねキャリア代表取締役CEO 沢渡 あまね氏

 自治体の立場で議論に参加したのは、東京都渋谷区でグローバル拠点都市推進課の課長を務める田坂克郎氏だ。田坂氏は海外の日本領事館やスタートアップの勤務経験もある。渋谷区にはスタートアップ関連部署の立ち上げのため4年前に参画した。渋谷区では現在、協創を支えるスタートアップフレンドリーな環境整備、国際化、そして規制緩和などを進めながら実証実験事業を行っている。実証実験事業については2020年6月の開始以来、300以上の応募があり80以上が採択され、うち10社が実際にスタートしている。


渋谷区グローバル拠点都市推進課 課長 田坂 克郎氏

 スタートアップ企業として、vivolaの創業者、角田夕香里氏。新卒でSONYに入り研究開発職を経て起業した。現在経営するvivolaは、AI技術を活用し、自分自身の課題でもあったという不妊治療領域の課題に対して、患者向け、医療機関向け、そして企業/自治体向けの事業を通して、解決をめざしている。


vivola株式会社 代表取締役CEO 角田 夕香里氏

 そして日立ソリューションズの野田勝義氏。新卒で同社に入社し、2021年からは全社を挙げたSXプロジェクトの事務局長として、様々な活動を支援してきた。同社は、“ワクワク”を促進するため、シリコンバレーでの社員による起業・独立の支援や、若手社員がキャリアプランを自身で考える「若年層ジョブマッチング制度」の整備、社外からも参加できるオープンなコミュニティ「ハロみん」の運営などに取り組んでいる。


日立ソリューションズが運営するオープンコミュニティ「ハロみん」

株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 経営企画本部 担当本部長 野田 勝義氏

 このセッションでは、リアルタイムの投票も行われた。「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を推進する際に、欠かせないと思うものを選んでください」という問いに対しての回答として最も多かったのが「従業員一人ひとりが自分ごと化して捉えること」である。それに対し、野田氏は「一人ひとりが意識して自ら活動を行わなければ、こういった活動は浸透していかない」と話した。次に多くの回答が集まったのは今回のテーマでもある「組織内外との協創(共創)」だ。組織間、企業間の垣根を超えた交流の波をつくる取り組みについてはこの後それぞれの事例を通して深く語られた。


アンケート「SXを推進する際に、欠かせないと思うものを選んでください」回答結果

課題を組織内に抱え込まず公表するから解決できる

 沢渡氏はまず、組織が越境するためにはどのような試みが有効かを3者に尋ねた。渋谷区の田坂氏の回答のひとつは“リバースピッチ”だ。

「一般的には、スタートアップの皆さんがピッチ(プレゼン)で自社のサービスや技術、アイデアを協業先である大手企業や自治体に提案することが多いですが、渋谷区では、スタートアップの皆さんに渋谷区の課題を公表し、その課題解決ができる方々を募るという、通常とは逆のやり方で行いました。当初は課題の公表に抵抗感を覚える部署もありましたが、成功事例ができてくるとそうした抵抗感も消えていったように感じます」

 角田氏も「スタートアップの側も、行政のみなさんが何を求めているのかを知りたいと思っています」と話す。また、バックグラウンドや、抱える情報量が異なる立場同士のコミュニケーションのキーワードとして“心理的安全性”を挙げる。「たとえば、企業と顧客の間にも壁があります。私自身も、不妊治療時に医療者との距離を感じていました。こうした壁や距離を埋めるのがコミュニケーションです。たとえば会社のビジョンやミッションなども、経営層が口にするだけで終わらせないといった工夫が必要ではないでしょうか」という。たとえばパーパスも、社員にも浸透させ日々の行動やつなげられるようにすれば、より多くの人が身近に感じられるようになる。

 野田氏も「フェムテックのようなセンシティブな領域での事業を進めるうえでは特に、データやテクノロジーで解決しようとする前に、適切なコミュニケーションの場を持つことが重要だと思います。当社でも、健康上の悩みを多く抱えがちな女性が、気軽に相談ができるようなアセスメントや、専門家にオンラインで面談できる場を提供するサービスなどによって、環境の改善を行っています。」と言う。

 そのうえで「従業員一人ひとりがSXを自分ごと化することも重要です。お題を与えられてやらされているのではなく、積極的に関わる姿勢が求められます」とも指摘する。

 そうした適切なコミュニケーションや自分ごと化できる風土を定着させるには、沢渡氏は「まずはわかってくれる個人を組織内に見つけること」だと強調する。野田氏も「組織は急には変わりません。時間をかけながら少しずつ前に進めていくことで、流れができてきたように思います」と振り返る。沢渡氏も「そうした流れをともに生み出す人をいかにして見つけていくか、そのジャーニーが変革を生むのです」と力を込めた。

人や組織によって定義の異なるサステナビリティというテーマに、それぞれの立場で向き合う

 このパネルディスカッションでは視聴者からの質問も多く寄せられた。リアルタイムに複数の質問に答えていく中で、それぞれが考える“サステナビリティの定義”についても語られた。

 まずは野田氏が「取り組む姿勢」を挙げた。

「大きな社会課題の解決というゴールはあるのですが、まずはそれに一人ひとりが向き合う姿勢、一緒に解決していくという前向きな心の持ちようが問われます」

 続いて角田氏が「子どもたちが楽しく暮らしていける社会を作ることではないでしょうか。大きな目標を掲げながらも、まずは半径5メートル位の人を幸せにすることをめざすことも必要です」と、視点の重要性を指摘する。

 田坂氏は「自分だけがベストを尽くしても、世の中はうまく行かない」ことを前提に「だから、様々な方々との協創が必要になります。それがサステナビリティだと思います」と持論を語った。

 これらの発言を受けて沢渡氏は「組織は急には変わりません。目先の成果を出す目に見えるものだけを評価するポジティブケイパビリティだけでなく、時間をかけながら変化を遂げるネガティブケイパビリティを組織の中でインストールしていくことが、組織を越境して協創を推し進め、SXを実現するための条件になると実感しました」と延べ、「次は皆さんの番です。サステナビリティというこのテーマに向き合うために、あなたは何をしますか」とパネルディスカッションを締めくくった。

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