なぜあの会社は儲かるのか?答えは決算書の中に隠されている――。本連載は、注目企業の「稼ぎ方」「儲けのしくみ」を決算書から読み解く話題書『決算書×ビジネスモデル大全』(矢部謙介著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。100円ショップ、飲料メーカーなど、同業でも企業によって大きく異なるビジネスモデルの特徴を、わかりやすく図解する。
第5回目は、カメラ大手メーカーニコンと富士フイルムホールディングスの決算書を比較、売上高営業利益率の差を解剖する。
<連載ラインアップ>
■第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
■第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?
■第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?
■第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?
■第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?(本稿)
■第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは
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富士フイルムHDは縮小市場にどう立ち向かったのか?
ニコンの苦戦と富士フイルムHDにおける「第二の創業」
経営改革についての事例として、カメラメーカー大手として知られるニコンと富士フイルムホールディングス(以下、富士フイルムHD)の決算書を比較してみましょう。
下図によって示されているように、2011年3月期以降における両社の売上高営業利益率は6~7%前後と同水準で推移してきましたが、2020年3月期以降ニコンの業績は落ち込み、2021年3月期ではニコンがマイナス6%、富士フイルムHDが8%と大きく明暗が分かれてしまいました。
スマートフォンの普及でデジタルカメラの市場は縮小が続いている中、生き残りのカギはどこにあるのでしょうか。まず、ニコンの決算書を見て、ニコンが営業赤字になってしまった原因を確認した上で、富士フイルムHDがどのようにして事業構造改革を行ってきたのか解説しましょう。
■デジタルカメラの不振で営業赤字のニコン
下図は、ニコンの2021年3月期の決算書を図解したものです。
B/Sの左側(資産サイド)において最大の金額を占めているのは、流動資産(6760億円)です。
この流動資産の中には、現金及び現金同等物が3520億円計上されています。売り上げの規模から見ても、ニコンは十分な手元資金を確保しているといえるでしょう。
また、流動資産には棚卸資産(在庫)が2360億円計上されています。これは、年間の売上収益(4510億円)の191日分に相当する金額です。事業セグメント別の資産の状況を見る限り、この棚卸資産の多くは液晶などのフラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置や半導体露光装置を手がける精機事業に属するものだと推測されます。
同じく半導体製造装置を手がける東京エレクトロン、SCREENホールディングス、ディスコにおける棚卸資産はそれぞれ売上高の108日分、109日分、111日分(いずれも2021年3月期)となっていますので、業界として在庫が多くなりがちな傾向にあるといえそうですが、ニコンにおける在庫水準の高さは少々気になるところです。
続いて、B/Sの右側(負債・純資産サイド)も見てみましょう。社債及び借入金が流動負債に300億円、非流動負債(固定負債に相当)に1040億円計上されており、有利子負債により調達した資金を設備投資などにあててきた状況がうかがえます。一方、資本(純資産に相当)も5390億円計上されており、自己資本比率は54%で安全性の観点から見て決して低い水準ではありません。
P/Lに目を転じてみると、売上収益が4510億円であるのに対し、売上原価が2950億円(原価率65%)、販管費が1810億円(販管費率40%)となっています。この結果、営業損失(その他の営業収益・営業費用を加味していません)は250億円と、赤字に転落しています。売上高営業利益率はマイナス6%です。
この営業赤字の大きな要因となったのは、デジタルカメラを手がける映像事業です。
有価証券報告書のセグメント情報によれば、ニコンの映像事業の営業損失は360億円にも上ります(ただし、セグメント情報における営業損益にはその他営業収益・営業費用が一部加味されています)。ニコンはスマートフォンと競合しにくい中高級機のデジタルカメラに注力していますが、それでも市場縮小のあおりを受けて業績的には厳しい状況です。