2023年12月にリテールメディアに関し、量販店業界とファッション業界で注目の動きがあった。「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスと博報堂が、ネットと店舗のモニターなどで配信する広告を一括で請け負う共同出資会社「ペーハーメディア(pHmedia)」を立ち上げたのも、その一つ

 2023年末に量販店業界でもファッション業界でも「リテールメディア」に注目すべき動きがあり、2024年は「リテールメディア」が本格的に開花することを予感させる。ECモールのデジタル広告に発した「リテールメディア」も実店舗へ波及するにつれ、賑わいタッチポイントのアナログイベントも再評価されそうだ。

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「リテールメディア」の注目ローンチ

 2023年12月、「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)と博報堂が、ネットと店舗のモニターなどで配信する広告を一括で請け負う共同出資会社「ペーハーメディア(pHmedia)」を立ち上げると発表した。テレビなど既存メディアとネットや店舗の広告の窓口を一元化して食品や日用品のメーカーからの広告を取りやすくし、宣伝部門の「広告費」と営業部門の「販促費」の両方を取り込んで2027年6月期までに100億円の受注を目指している。

 博報堂は既に博報堂DYグループ12社横断の「ショッパーマーケティング・イニシアティブ」が2023年4月にリテールメディア特化のワンストップ統合窓口「リテールメディアONE」を開設して営業体制を構築しているが、今回の「ペーハーメディア」設立はPPIHが過半を出資してイニシアチブを取ることが注目される。PPIHはテナント賃貸収入で不動産費負担を軽減していることで知られるが(売上対比の地代家賃と減価償却費の合計は2022年6月期で4.71%、2023年6月期で4.84%)、「リテールメディア」の広告費を新たな収入源として本格的に拡大していくと見られる。

 小売業で先行するウォルマートの米国売上4205億5300万ドルのうち広告収入は27億ドルと0.64%に過ぎないが、営業利益の13.1%を占める(数値は2023年1月期)。ファッションECモール大手のZOZOでも売上に占める広告事業収入の比率は4.2%に過ぎないが、営業利益に占める割合は13.8%に達する(数値は2023年3月期)。既存インフラの活用で営業利益を二桁増やせるとしたら、大手小売業各社が積極的に取り組むのは当然だろう。PPIHのローンチを契機に2024年は各社の積極策が広がるのではないか。

 ファッション業界でも先日、「リステア」元社長の高下浩明氏が「リテールメディア」をうたってデジタル百貨店「246セレクト」をローンチしたが、かつて東京ミッドタウンにあった「リステア」もラグジュアリーブランドから広告費を稼ぐ「リテールメディア」の先駆けだった。

 「246セレクト」は在庫を持たないセレクト&キュレーション型メディア事業で、ラグジュアリーブランドからコスメやジュエリー、ガジェットやインテリア、車やアートまで約80ブランドでスタートしているが、取扱手数料ではなく「メディア出稿料」でマネタイズしている。「メディア出稿料」を稼げるのはリステアで培ったセレブや富裕層、ラグジュアリーブランドとのネットワークがあるからだ。

 「リステア 東京ミッドタウン」は2007年3月の東京ミッドタウン(東京都港区)の開業と同時に開店し(今は「イセタンサローネ」が位置する正面入り口の2層計1000平米)、芸能人やモデルなどセレブや富裕層に支持されてピークには年間20億円を売り上げ、商品売上より広告費収入の方が多かったという「神話」が残るが、それほど時代を先取りした「リテールメディア」だった。リテールメディア型ファッションストアとしては1997年に創業して2017年にクローズされたパリ・サントノーレ通りの「colette(コレット)」が知られるが、セレブや富裕層がハイブランドと交流する華やかさという点で「リステア 東京ミッドタウン」に並ぶファッションストアはかつて無かった。

急拡大して収益源化するリテールメディア

 「リテールメディア」と言うと、OMO(注1)アプリのストアモードとID-POS(注2)の連携で顧客のスマートフォンや店内のサイネージにレコメンドや広告を表示するというインストアイメージが強いが、元はアマゾンがECモールの検索広告から始めたもので、今日でもECモールのデジタル広告が8割以上を占める。

 2012年の米国アマゾンに発祥したECプラットフォームのデジタル広告は他のECプラットフォーマーにも広がり、今や大手小売チェーンにも波及して急速に拡大している。BCG(ボストン コンサルティング グループ)は、米国のリテールメディア市場が2022年は前年から30.6%伸びて470億ドル、2023年は25.5%伸びて590億ドルと推計し、2024年は23.7%伸びて730億ドル、2026年には2022年比2.34倍の1100億ドルになると予測している。

 2022年はアマゾンの広告サービス収入だけでも377億3900万ドルと米国リテールメディア市場の80.3%を占め、同期のYouTubeの広告収入292億4300万ドルを大きく上回った。アマゾンにとってもAmazonプライムの会費や電子書籍などのサブスクリプション売上352億1800万ドルを上回って全社売上の7.34%を占め、収益の柱の一つになっている。

 アマゾンなどECモールのデジタル広告が急伸しているのは、「広告予算が効果を見極めにくい既存のマスメディア広告や雑誌広告から狙いを絞って広告効果が確実なデジタル広告に急ピッチでシフトしている」のに加え、「Cookieを使った個人情報のサードパーティ利用に対する規制の強化が追い風になっている」からだ。ECプラットフォームのデジタル広告はID-POS個人情報のファーストパーティ利用で確実に売上につながるから広告効果が高く効果測定も明確で、デジタル広告費が流れていくのは必然と思われる。

 自社ECモール内のデジタル広告に始まり、OMOアプリのインストアモードとID-POSが連携できるようになって、ようやくパーソナルなレコメンドや広告訴求が可能になるというイメージだが、そんなシステム環境が整わなくても店舗のリテールメディア化と広告費獲得はいくらでも進められる。店舗DXで先行する米国でも、ミールソリューション型の繁盛スーパーマーケットや大手ディスカウントストアでアナログな試供実演販売が見直されているからだ。

(注1)Online Merges with Offlineの略称。ネットと店舗の垣根を越えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。
(注2)顧客データ(ID)がひも付いた売上データ(POS)