生活道路に面する「しまむら」は2万5000人で成り立つと言われる。しまむらの売上は1992年2月期の772億円から2023年2月期は6161億円と8倍に伸びている。写真:アフロ

 GMS(ゼネラルマーチャンダイズストア:総合スーパー)の衣料品は長年、衰退が続き、イトーヨーカ堂が自前のアパレル事業から撤退を決めるなど、「食品と衣料品の併売はやっぱり無理なんだ」という見方がある一方、食品スーパーと大差ない生活商圏で「しまむら」は健闘しているし、「無印良品」は食品スーパーに隣接する600坪型大型店の布陣を加速している。食品の隣では衣料品は売れないのか、やり方次第では売れるのか、どちらが正しいのだろうか。

シリーズ「流通ストラテジスト 小島健輔の直言」
小島健輔が解説「アパレル業界のDXはなぜ、分断と混迷を抜け出せない?」
小島健輔が喝破、「Amazon GoとAmazon Styleの問題はここにあり」
物流業界の「逼迫危機問題」、依存している小売業界側から見てみたら
イトーヨーカ堂はなぜ直営アパレル事業から撤退せねばならなかったのか
市場の縮小が続く日本のアパレル業界、その理由は「非効率な衣料品流通」だ
「高まり続けるEC化率」を喜べないアパレル業界の不合理な因習

ルルレモンとギャップの明暗を分けたアスレジャーの奔流と機能素材革命
年収水準に見るアパレル小売の課題とインフレ政策という突破口
矛盾を抱えるSC業界にテナントチェーンはどう付き合うべきか
購買慣習が変わった今こそ見直したい、チェーンストアにとってのVMDの役割
過渡期の今こそ検証したい「店舗DXは業績向上に寄与しているのか」
小島健輔が問う、「インフレ時代に求められる経営哲学と革命条件は何か」
小島健輔が考える「チェーンストアとアパレルの集中戦略と分散戦術」
小島健輔が解説、アパレル小売経営に今求められる「多変数連立方程式」とは
衰退する既製スーツの救世主は「OMO/DX」と「アクティブスーツ」だ
■チェーンストアが誤った、「食品スーパーの隣で売れる衣料品」の理解と実践(本稿)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

「食品」と「衣料品」、「売れる」「売れない」、「食品の隣」を定義する

 「食品の隣で衣料品は売れるのか」という議論の前に、「食品」と「衣料品」、「売れる」「売れない」、「食品の隣」を定義しておく必要がある。「食品」といってもコンビニや食品スーパーで売られる日常食品(最寄り品)と都心のデパ地下や駅ビルで売られる嗜好食品や贈答食品(買い回り品)は性格が異なるし、「衣料品」も下着や寝間着・部屋着と外着、同じ下着や外着でも普段用とお出かけ用は性格が異なるからだ。

 食品スーパーの隣でも下着や寝間着・部屋着は問題なく売れるし、外着でも手頃価格の普段用なら難しくないだろう。「ユニクロ」は生活圏のロードサイドから出発してCSC(コミュニティSC:地域の中型ショッピングセンター)サイズの地域商圏でも売れる普段着のマーチャンダイジング(MD)を確立し、「縦売り」(後述)する開発商品に集約しながら出店立地をRSC(広域大型ショッピングセンター)や都心のターミナルなど大商圏(買い回り立地)に上って行ったという経緯がある。

 今回、テーマに取り上げた「食品の隣で売る衣料品」とは、「食品」は日常食品から日用品やドラッグまでそろえたSSM(スーパースーパーマーケット:大型のSM)、「衣料品」は下着や寝間着・部屋着・ワンマイルウエアからおしゃれな普段着、手頃な通勤着までを想定するべきだろう。

 「食品の隣で売る」といっても、日常食品の買い物ついでの衣料品の購入は期待できない。重くてかさばり、温度管理も必要な食品を抱えて衣料品売場に回るのは非現実的だからだ。隣にあっても食品と衣料品の買い回りは不可能に近く、隣接する衣料品の存在を知る機会とはなっても、改めて訪れるしかない。SSMの客数も平日で2000人強、週末でも3000人台だから、最大1割が買い回ってその半分が買い上げるとしても(望外な想定だが)、大型の衣料品売場がついで買いで成り立つ訳がない。SSMの集客力で衣料品が売れるというのは全くの錯覚で、隣にあっても独自に集客するしかないのが現実だ。

 「売れる」「売れない」も程度問題で、運営コストが低ければ販売効率(坪売上)が低くても利益は残るし、運営コストが高ければ販売効率が高くても利益は残らない。好調な「しまむら」とて坪当たり年間102.8万円しか売れていないが、仕入れ型で粗利益率が33.2%しかなくても販管費率を25.6%に抑えて売上対比8.7%の営業利益を稼いでいる(2023年2月期の「しまむら」事業)。要は採算が取れるかどうかだ。

 商圏の規模にしても、デパ地下は数百万人、RSCも30万人以上の広域から集客しているし、GMSを核店舗としたCSCとて10万人以上の商圏がないと成り立たない。大型独立店舗のSSMは5万人以上の商圏を確保していると思われるが、中規模なSM(スーパーマーケット)はその半分か4分の1で成り立っている。生活道路に面する「しまむら」は2万5000人で成り立つと言われるが、それでもコンビニの8倍の商圏人口だ。「無印良品」が想定している「食品スーパー」とは年商30億円級の大型のSSMだから、独立店舗なら5万人強、ディスカウントストアやホームセンターとパワーセンター(価格訴求の日常商品店を集めたショッピングセンター)を形成している立地なら10万人以上が見込めるが、RSCの販売効率からは半分前後に落ちる(計画ではRSC並みの販売効率を想定しているが、客数から見ても買い回り率から見ても無理があり過ぎる)。

 歩いてあるいは自転車でジャージなどワンマイルウエアでも行ける「近隣立地」(コンビニや小型SM)、乗用車利用も半ばするワンマイルウエアや普段着で行ける「生活圏立地」(中型SMやドラッグストア、「しまむら」)、流石にワンマイルウエアははばかられるが普段着で行ける乗用車利用や電車利用が大半の「地域圏立地」(大型のSSMやパワーセンター、CSC)までが最寄り性で、広域圏RSC以上はこぎれいな普段着かお出かけ着で行く買い回り性になるから、「食品の隣」とは「普段着で行ける最寄り性立地」と定義できるだろう。