出店政策と商品政策の方向が上向きにそろい、かつ長年に渡って一貫していることがユニクロの営業効率を高め、業績を押し上げている

 アパレルチェーンの経営はマーケットサイド、サプライサイドはもちろんインナーサイドもにらんで、左脳と右脳はもちろん第六感まで動員して正解を求める多変数連立方程式みたいなもので、成功結果、失敗結果はそれらしく説明できても、将来の成功を確約する方程式を求めるのは至難の業だ。方程式の解を求めるには、まずデータの信憑性と相反する「変数」の構図を認識する必要があるのではないか。

シリーズ「流通ストラテジスト 小島健輔の直言」
小島健輔が解説「アパレル業界のDXはなぜ、分断と混迷を抜け出せない?」
小島健輔が喝破、「Amazon GoとAmazon Styleの問題はここにあり」
物流業界の「逼迫危機問題」、依存している小売業界側から見てみたら
イトーヨーカ堂はなぜ直営アパレル事業から撤退せねばならなかったのか
市場の縮小が続く日本のアパレル業界、その理由は「非効率な衣料品流通」だ
「高まり続けるEC化率」を喜べないアパレル業界の不合理な因習

ルルレモンとギャップの明暗を分けたアスレジャーの奔流と機能素材革命
年収水準に見るアパレル小売の課題とインフレ政策という突破口
矛盾を抱えるSC業界にテナントチェーンはどう付き合うべきか
購買慣習が変わった今こそ見直したい、チェーンストアにとってのVMDの役割
過渡期の今こそ検証したい「店舗DXは業績向上に寄与しているのか」
小島健輔が問う、「インフレ時代に求められる経営哲学と革命条件は何か」
小島健輔が考える「チェーンストアとアパレルの集中戦略と分散戦術」
■小島健輔が解説、アパレル小売経営に今求められる「多変数連立方程式」とは(本稿)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

「変数」の性格と信憑性

 「変数」にはストレートに数字でつかめる「定量」データと感覚的な要素を無理やり座標やチャートで表した「定性」データがあり、それを基に過去の結果を検証して未来を予測するわけだが、幾つも判断ミスを誘う落とし穴がある。

 過去の結果は「定量」データであっても対象期間と因数設定で方向感が異なって見えることがあり(地球温暖化と寒冷化など典型的)、調査対象の絞り方次第で因果関係が異なって見えることもある(地球温暖化のCO2犯人説など典型的)。身近なところでは、売上変化を前年比で見るかコロナ前の2019年比で見るか、客数傾向を都心店で見るか郊外店で見るか、などがその好例だろう。「定量」データでも恣意的な印象操作が可能だから、「定性」データともなれば誘導したい方向に仕組まれることが大半であり、「No.1」などの誇大広告はもちろん、会議で提出される事業計画なども印象操作を疑った方がよい。

 印象操作が際立つのが未来予測で、「線形予測」(これまでの傾向を踏襲)も「周期予測」(これまでの変動パターンを踏襲)もパラメータをどう設定しても方向性は変わらない。プログラムしたアルゴリズム予測でも機械学習のAI予測でもそれは同様だ。コンサルティングファームの事業計画書など、印象操作のデパートかと思いたくなる。長期予測では使えないが、短期の変動が増幅・減衰する「周期予測」はアルゴリズムが得意とするところで、天候予測と組み合わせて品番・SKU(ストック・キーピング・ユニット)単位の週販点数予測などで定着している。

マーケットサイドの相反する「変数」

 マーケットサイドの「変数」は、政策的には世代人口推移(全国/各店舗の実勢商圏)と各世代のライフスタイル・消費傾向を基本に、実務的には週・曜日・時間帯の来館者数(世代・男女で寄与度が異なる)から「入店率」「買上率」を男女・世代別に捉え、「客数」と「客単価」、アイテムごとの「買上単価」と「在庫単価」のギャップを週次に追っていく。

 「入店率」が低下していれば店頭のVP(ビジュアルプレゼンテーション)や単品訴求のインパクトが足らないか顧客とすれ違っている可能性、「買上率」が低下していればバラエティー不足や鮮度低下か価格ギャップか売れ筋の色・サイズ欠品が疑われる。

 アイテムごとの「買上単価」が「在庫単価」より高ければ「松竹梅」3プライスラインのバランスを上方修正する余地があるが、「買上単価」が「在庫単価」より低ければバランスを下方修正する必要があり、シーズン末の値引きロスが危惧される。その場合はシーズン末を待たず、先んじて在庫過剰の品番やSKUに限定して小幅なキックオフ(期間限定値引き)やタイムセールを仕掛けるのが賢明だ。

 そんな「定量」データより客数と売上を左右するのが「定性」データであり、「個性」と「普遍性」のはざまでどう商品政策を位置決めるかが問われる。「個性」は市場開拓の突破口になるがメジャーに普及させるには「普遍性」が不可欠で、さまざまな顧客や地域の要求を取り込んで最適な「最大公約数」を見いだしていくマーケティングセンスが勝敗を決める。ユニクロが海外進出で幾度も挫折しながら中国や欧米のローカルニーズを吸収して見いだした「最大公約数」が究極の普段着「ライフウエア」だったのではないか。

 アパレルでは商品の「完成度」が問われるが、「完成度」を追求すれば着こなし着崩しが難しくなり、顧客の間口を狭めてしまう。「完成度」をほどほどにして着こなしやすい「融通性」をいかに確保するか、パターンや生産仕様のさじ加減が問われるが、その点でもユニクロの進化は著しく、「UNIQLO:C」はブリティッシュモダンなウィメンズ企画でありながらメンズ売場でもサイズをそろえてジェンダーレス展開されている。