3D・CADCAMとPLM導入の流れをあおったのが、中国発の急成長ファストファッション越境EC「SHEIN」のDX装備スーパーファストサプライだった。 

 コンビニやスーパーマーケット、ドラッグストアやホームセンターなど大手小売業で急進するDXだが、アパレル業界のDXは分断と混迷を抜け出せていない。それはEC&アプリ軸のOMOというCRM(顧客マネジメント)、3D・CADCAM※1軸のPLM※2やEDI軸のVMI※3というSCM(サプライチェーンマネジメント)、果ては位置付けの怪しいメタバースなど各分野の個別対応でDXが進む中、「最大のコストセンターたる店舗運営や物流のDXが後手に回ってコストが肥大し、各分野のさまざまなASPとつながって継ぎはぎだらけになった基幹システムがクラウドシフトに直面して抜本的な再構築を迫られているから」だ。

※1:コンピューターグラフィック支援の設計と製造。/※2:Product Lifecycle Managementの略。商品の企画・開発から生産・物流、流通・販売、二次流通、廃棄までライフサイクル全体の流れを戦略的に管理・運用して品質とブランド価値、利益とキャッシュフローを最大化するサプライマネジメント体系。/※3:Vendor Managed Inventoryの略。あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

シリーズ「流通ストラテジスト 小島健輔の直言」
■小島健輔が解説「アパレル業界のDXはなぜ、分断と混迷を抜け出せない?」(本稿)

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コロナ下で急伸したアパレル業界のECとOMO

 2020年春から3年も続いたコロナ禍で衣料・服飾の店舗販売が低迷する中(回復が進んだ22年計の商業動態統計でも19年比20.7%減)、アパレル業界は採算度外視でEC拡大とSNS活用に注力し、E2Cプレイヤー※4化した販売員経由やアプリ経由の売り上げが急増。一息ついてからは店舗再生のOMOへとシフトし、店舗在庫表示や店舗取り置き試着、店受け取り(BOPIS)でEC顧客の店舗誘導を進めている。

 衣類・服飾雑貨のEC比率はコロナ前19年の13.87%から20年19.44%、21年は21.15%と急上昇し(経済産業省「電子商取引統計」)、店舗販売の急落もあって大手でも20年はEC比率が過半を超えるケースが続出したが21年には落ち着き、22年はEC伸び率の鈍化と店舗販売の回復でEC比率はわずかな上昇にとどまったと推計される。23年は規制の終了による外出機会の拡大やリベンジ消費、インバウンド復活や新鮮トレンド希求で店舗回帰が加速し、EC比率は中国や欧米のようには伸びず23%前後で足踏むと思われる。

 こうした店舗販売回復の一方で調達コストや光熱費、物流費、人件費のインフレが加速し、採算度外視で広げたECやUI※5関連ASP※6、SNSやネット広告、物流の費用を見直すとともに、RFタグや画像AIによるセルフ精算やフェイス管理自動化など店舗運営の人時生産性向上へと、ようやく目が向き始めている。

※4:E2Cプレイヤーとは、SNSやECを通して顧客に働きかけるスタッフ・インフルエンサー/※5:User Interfaceの略。ECやSNS、店舗での顧客との接点を多様化・利便化する施策で、UX(User eXperience/顧客体験)を通じてLTV(Life Time Value/顧客生涯価値)を築いていくとされる。/※6:Application Service Providerの略で、クラウドで提供されるアプリケーションあるいは提供する事業者を指す。