レディスファッションを中心に、飲食やコスメなど約50ブランドを運営するTSIホールディングス。環境問題や好みの多様化などアパレル業界に逆風が吹き荒れる中、「脱アパレルonly企業」になるべく、さまざまな挑戦を続けている。挑戦の軸となっているのが、同社が掲げるパーパスだ。社長の下地毅氏に、パーパスに込めた思い、個性的な50ブランドにパーパスを浸透させる手法、パーパス実現のために現在取り組んでいることについて聞いた。

大量消費やトレンドに代わる「ファッションの楽しさ」を見つめ直す

 アパレルを中心にコスメや飲食など約50ブランドを抱えるTSIホールディングスのパーパスは「ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す。」だ。このパーパスは、同社の中期経営計画であるTIP24(TSI Innovation Program 2024)とともに発表されたが、直後にコロナ禍が訪れ、現在はTIP25へと内容を更新して実現を目指している。アパレル業界歴30年以上の下地毅社長は、パーパス制定当時の状況についてこう語る。

「ファッションは社会を変えていける、もっと楽しいことができると社内が動き出したタイミングで、ちょうどコロナ禍が訪れた。リアルショップが閉まり、流通も止まったことで、改めて従来の大量生産・大量消費やブランド同質化のビジネスモデルは捨てるべきだと感じた。ただし、業界に長年、携わってきて、ファッションは社会的な気分を表し、良い方向に影響を与える力があると私は信じている。人と環境のために一歩踏み出す、リジェネレーション(再生・新生)をこの2年間行ってきた」

下地 毅/TSIホールディングス 代表取締役社長 兼 TSI 代表取締役社長

1964年生まれ、沖縄県出身。1997年上野商会入社、2016年に同社専務取締役執行役員商品本部長を経て、2018年に社長就任。TSIホールディングスでは2019年に執行役員、2020年に第4事業カンパニー長や取締役営業本部長などを経て、2021年より現職。

 この下地氏の発言を読み解くには、まずファッション業界全体が抱える問題について触れる必要がある。パリやミラノなど毎シーズン海外コレクションから生まれるトレンドへの関心は薄まり、人々は流行にとらわれず自分の好きなテイストの洋服を着るようになった。好みが細分化されることで必ず売れる定番品やヒット商品は生まれにくくなり、ファッション全体での需要は伸び悩んでいる。理由はさまざまだが、トレンド発信者である若者の興味がスマホやゲームなど新しいカルチャーに分散したこと、多様性が当たり前の時代において「今はこれを着なければ恥ずかしい」というトレンドアイテムが減少したことなどが挙げられる。

 加えてファストファッションの台頭を契機に、洋服の大量生産と大量廃棄による環境問題が大きく取り上げられるようになり、次々と新商品を提案し続ける従来の販売手法の見直しも迫られている。消費者ニーズも変化し、気候やライフスタイルに対応する「機能性や実用品としての衣類」、あるいは個人で好きなものを身に着ける「自分らしさの表現」を求めるようになってきた。

 パーパスに掲げる「ファッションエンターテインメント」は、季節やトレンドに応じて目まぐるしく移り変わるファッションの楽しさではなく、現在の時勢にふさわしい新たなファッションの楽しさを指す。業界全体でファッションの魅力を再定義している現在、TSIホールディングスでは勝機を「楽しさ」にあると見込む。

「フランスのマルシェのように、一つの場所に魅力的な店がたくさん集まり賑わいを生む商店街のような会社を目指す。そのためには会社も個人も、新しいことにどんどんチャレンジして自主性を高めていく。人が集う環境を作り、世界中に広げていく」