外出機会やオフィス着需要の減少、大量生産・廃棄で生じる環境問題など、逆境にあるアパレル業界。そんな現状を千載一遇の機会と捉えてDXに取り組んでいるのが、レディース向けファッションブランドや飲食業を展開するTSIホールディングスだ。
「これまでのアパレル業界では勘や経験、感性が重視されていたが、コロナ渦で一気に空気が変わり、全員に『今のままではいけない』という共通認識が生まれた。基幹システムの入れ替えやECと店舗間での在庫連動など既にEC化に取り組んでいたことも追い風になり、新しいことに挑戦しようとの気運が高まっている」
TSIホールディングスのTIP推進部長を務める今泉純氏は、長年の業界慣習から脱却しつつあるグループの現状をこう評する。グループでは2025年に向けた中期経営計画「TSI Innovation Program 2025(TIP25)」に基づき、収益構造の転換やIT・デジタル化の推進、EC販売強化、人材教育など抜本的な改革を進めている最中だ。
メタバースで進める「デジタルファッション」の意味
「ファッションには、防寒や快適さなど着るための道具的価値と、エンターテインメント・メッセージを発信するという2つの製品価値がある。だが、現実世界での洋服は同質化が進み、どのブランドのものか分からないほどメッセージ性を失ってしまった。買うときにワクワクする気持ちがあり、自己表現の手段となっていれば、たとえデジタルであっても『ファッション』だと言える」
今泉氏が語るようにグループで盛り上がりを見せるのは、メタバース(仮想空間)でのデジタルとしてのファッションだ。自分の分身となるアバターが身にまとう洋服は、そのままユーザーの自己表現となる。自分とは異なる性別の選択や動物など現実世界ではなれない自分になることができるため、従来のファッションでは考えられなかった面白い洋服が次々と生まれている。
メタバースではユーザーはTPOや人目を気にせず洋服を選び、デザイナーも独創的で突飛なデザインや見たことのない奇抜なクリエーションにも挑戦できる。また、人間が着る服にはサイズやデザインなど物理的制約が生じるが、アバターに着せる服は「自由」だ。在庫の発生しないデジタルファッションは、SDGsの観点からも好ましい。