人口減少による人手不足、市場縮小が進む中、小売業界では顧客戦略の重要性が増している。多様化する顧客ニーズを捉え、顧客体験を向上させて収益拡大につなげるために、今、取り組むべきことは何か。アマゾンジャパンを皮切りに、システムおよびビジネスの両面から小売業の変革に広く携わってきたサンドラッグ執行役員の田丸知加氏が、リテールにおけるAI・データ活用の現状と未来の展望について語る。

※本稿は、Japan Innovation Review Forums主催の「第18回 リテールイノベーションフォーラム」における「特別講演:リテール経営戦略: AIとデータ、DXとオムニチャネルの先へ- 不確実な未来に対応するために -/田丸知加氏」(2024年11月に配信)をもとに制作しています。

リテールにおけるAI・データ活用の現状と「顧客の購買体験」の重要性

 生成AIは小売業界(リテール)全体、どのような影響をもたらすのか。また、リテールがAI・データを活用してビジネスを拡大していくためには、何が必要なのか。これらを考える前に、まず現状を整理してみます。

 情報通信総合研究所による、企業の生成AI導入に関するアンケートでは、情報通信業や金融業に比べて、卸売業、小売業、サービス業で導入率が低い傾向が見られます(下図)。

 リテールにおけるAI活用は、マーケティング、チャット機能による問い合わせ対応、需要予測など、小分けの事例は出ているものの、広範囲にわたった適用事例は多くありません。

 これには、生成AI活用において指摘される「ノウハウ不足」「正確性の担保の難しさ」「個人情報保護」といった課題が関係しています。顧客と距離の近いリテールでは、こうした課題に伴うリスクが顕在化した場合のインパクトが大きく、様子見せざるを得ないという実情があります。

 リテールにおけるAIおよびデータ活用は、大きく3つ、①顧客の購買に関連するもの ②取引に関するもの ③社内的なものに分けられます(下図)。

 最も難易度が低いのは、社内で完結する③です。業務効率化や社員向けトレーニングなど、すでにこの領域でAI・データを取り入れている企業も多いでしょう。外部の取引先が関係する②は、難易度は上がるものの、サプライチェーン最適化など、重要性が増している領域です。

 そして、最も売り上げ・利益に大きなインパクトをもたらすのが①です。失敗した場合のリスクが大きく難易度は高いものの、他社と差別化を図り、競争力を強化するためにも取り組むべき領域です。

 そこで次項からは、顧客の購買体験におけるAI・データ活用について、具体的に現状と展望を述べていきます。