少子高齢化、人口減、格差社会といった社会構造の変化、IT・AI技術の急速な進化で、企業を取り巻く環境は激変しており、今までとは次元が異なる新たな環境に対応すべく、迅速な事業変革が求められている。
そうした中で、企業経営において、DX(デジタルトランスフォーメーション)は喫緊に取り組むべき最も重要な経営課題の一つ。これは小売業界も変わらない。
しかし、情報処理推進機構(IPA)の『DX白書2023』によれば、小売業・卸売業で「DXを実施している」と回答した企業は22.6%に過ぎない。実施している企業においても、成果はデータのデジタル化や業務の効率化にとどまっているのが大半で、新たな価値創出やビジネスモデルの抜本的なイノベーションにつながる取り組みはほとんどないのが現状だ。
DX推進には、変化に対して柔軟に対応できるアジリティや外部と連携した社内横断的な効率的なシステム構築が欠かせないが、経営陣のDXに対する見識の欠如と人材不足、社内体制の不備などで十分な対応もできていない。
こうした状況を打開するためには、まず、オムニチャネルをはじめDXが急速に進んでいる海外に目を向けるべきだと提言するのが、サンドラッグ 執行役員 兼 EC事業部 事業長の田丸知加氏だ。
まずは先進国とのギャップを認識し危機感を実感すること
20年にわたってデジタル・ECの分野に従事してきた田丸氏からすると、日本の小売業界のDXは海外、とりわけ米国から10年は遅れていると認識しており、「ウォルマートのオムニチャネルといった海外の成功事例に目を向けて、数多くの事例を研究して共有する必要があります。また、国内の事例も織り交ぜながら、必ず数値で説明し、グローバルな視点での理解を深めることが重要」だと指摘する。
つまり、「井の中の蛙大海を知らず」とならないように、広く世界に目を向けて先進国とのギャップを認識して危機感を実感した上で、社内で情報を共有し、広く啓もう活動を行うことがDX推進の大前提だというのだ。
また、田丸氏はさらに取り組みを進める際の厚い壁を取り除く必要があると言う。「『知らないものや自分が関わっている事業にメリットがないものには協力しない』という社員の意識を変える必要があります。そのためには、変革に対する抵抗感を払しょくしなければなりません。ECやデジタルではこんなことができると少しずつ共有し、理解してもらう必要があります」と田丸氏。
こうした点がクリアできて、初めて次のステップとして教育と能力開発に取り組むべきだと田丸氏は指摘する。「『なんとなくやった方がいい気がするが、やり方が分からない』とか、『いろいろ調べてみたけれど、言葉が分からない』、『どういうふうに要件定義をすればいいのか?』などの疑問を解消するために、5分でも10分でもいいので、動画を見る機会をもってもらうとよいでしょう。そうしてリーダーシップを発揮できるキーパーソンを育成することが欠かせないと思います。」(田丸氏)