北部九州を中心にホームセンターを展開するグッデイ(福岡市)のデータ分析・活用が注目されている。同社は、市販ツールを利用して各種データを「見える化」するとともに、データを基に仕事を進める「データドリブン経営」を社内全体で実践。DXの先進事例として第1回日本DX大賞(主催・同賞実行委員会)大規模法人部門で大賞を受賞した。売上高360億円(2023年3月期)、店舗数64店という地方チェーンの取り組みは、大規模なシステム投資が難しい中小企業にとって大いに参考になるはずだ。同社が生まれ変わった軌跡を柳瀬隆志社長に語ってもらった。
データに基づいて考える習慣がない会社だった
グッデイはラジオ・アマチュア無線のパーツを販売する小売店として創業。1950年に嘉穂(かほ)無線(現嘉穂無線ホールディングス)として株式会社化した。新規事業として1978年にホームセンター「グッデイ」の1号店を福岡県大野城市にオープン。現在ではホームセンター事業が経営の柱になっている。
嘉穂無線の創業家に生まれた柳瀬隆志現社長は東京大学を卒業後、2000年に三井物産に入社。冷凍食品などの輸入業務に携わった後、2008年、31歳で嘉穂無線に入社している。1年目は店舗で働いたが、2年目からは本部で物流センターの立ち上げなどを手掛けた後、営業本部長として仕入れや店舗運営の改革に取り組んだ。
「最初はなかなかうまくいきませんでした。昔は『勘が鈍るからデータを見るな』と言われるほどデータに基づいて考える習慣がない会社だったので『今までこうやってきた』と経験で話をされ、改革は進みませんでした」と柳瀬社長は振り返る。
データを経営に活用したいと考えたが、システム部から「サーバーを買うと投資が何千万円もかかる」「従来の基幹システムを入れ換えるのは何億円もかかる」と言われ、投資に二の足を踏まざるを得なかった。
当時はデータ活用をしようと思えば、生データを全てダウンロードし、エクセルを使って自分で加工しなければならなかった。社員に依頼するとちょっとした分析でも数時間かかり、深夜残業を誘発していた。
あるとき、システム部から「クラウドのデータベースにPOSデータを入れたので何か使ってください」との依頼があった。データがあるだけでは意味がない。その少し前、取引先から「Tableau」(タブロー)というBI(ビジネスインテリジェンス)ツールがあると聞いていたので、データベースにアクセスし、Tableauで加工・分析してみた。
すると、以前はエクセルで時間をかけていたデータの加工作業が瞬時に終わり、ビジュアルなグラフも作れた。データが視覚化されるので直感的に理解しやすい。何よりプログラムの知識も要らない。これは便利だと気が付いた。
社内における情報共有のためにグループウエアの「Google Workspace」(グーグルワークスペース)を利用し始めたのも、この時期。これを機にグッデイでは2015年ごろからデータ活用への取り組みが一気に進んだ。
情報を可視化し、社内で共有するようになった
現在は「Google Cloud」(グーグルクラウド)が提供している「Google BigQuery」(グーグルビッグクエリ)というデータウエアハウスを使い、そこに社内の基幹システム、人事や会計システム上の業務データ、POS(販売時点管理システム)データ、気象データ、市場データ、また外部データなどを含め、あらゆるデータを保管する。データは毎日更新。それをTableauを使って可視化し、分析している。
本部では商品部、店舗運営部、マーケティング部など各部署にTableauを使える社員を最低1人ずつ配置。部署長とダッシュボード作成者が部署内でどういうデータを可視化すればいいのかを話し合い、実務担当者が収集・分析したデータを基に集計値や表、グラフなど分かりやすい形でダッシュボードを作成。部署内の社員がそれを閲覧し、さまざまな施策の判断材料として利用している。
店舗では週次や当日の売上動向(10分ごとに更新)やカテゴリー別動向、売れ筋商品などをダッシュボードで確認。現場での意思決定に役立てている(ダッシュボードは商品部、店舗運営部など部署別、テーマ別に作成されている)。
また、これらのデータは本部側でも活用され、エリアマネジャーやバイヤーが在庫金額や商品回転率などのKPI(重要業績評価指標)の動向を見ながら各店に営業施策の指示を出している。