1993年セブン-イレブン・ジャパン入社。加盟店を支援する現場でゾーンマネジャーを経験し、2011年からセブン&アイ・ホールディングス システム部 シニアオフィサー。オムニチャネル戦略参画、2016年からグループのID統合および統合ロイヤルティプログラムの立ち上げを実施しCRM戦略を担当。現在DX推進本部シニアオフィサーとしてデジタル戦略を担当。

 セブン&アイ・ホールディングスは2018年にグループ共通会員IDの「7iD」(セブンアイディ)を導入。グループのユーザー基盤としてセブン-イレブンやイトーヨーカドー、アカチャンホンポなど複数業態をまたいだこのデータを事業戦略に役立てている。同社のデジタルマーケティング部CRM推進兼カスタマーサービスシニアオフィサーである伏見一茂氏に、7iDのデータ活用の実態などについて聞いた。(インタビュー・構成/西岡克)

<編集部からのお知らせ>
本記事でインタビューした伏見一茂氏も登壇するオンラインイベント「第10回リテールDXフォーラム」を、2022年11月28日(月)、29日(火)に開催します!
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伏見 一茂氏の「7iDデータ利活用とCRM戦略」と題した講演のほか、小売業界の革新的な第一人者ダグ・スティーブンス氏の「小売サプライチェーンの変革」、ペトラ・ファーレ氏による「イケアのオムニチャネル戦略とサステナビリティの取り組み」など、小売業ならではのDXの進め方について学べるオンラインセミナー「第10回 リテールDXフォーラム」(参加登録受付中)

購買情報はグループ横断で単品レベルまで

――伏見さんの所属と担当されている業務は。

伏見 当社には事業会社のビジネスに向けた「グループDX推進本部」とシステム開発を手掛ける「グループDXソリューション本部」がありますが、私はグループDX推進本部に属しています。7iDを通じてデータを集めお客さまを深く知り、マーケティングも直接打つというCRM(顧客関係管理)戦略などを担当。ロイヤルティプログラムをグループ横断で運営し、お客さまの利用頻度やバスケットサイズを高めようとしています。

――7iDでは属性、購買、行動情報を一元管理されているそうですが、どのレベルまで把握できているのですか。

伏見 7iDとは1つ持つとグループの各事業会社間のさまざまなサービスがシームレスに移動可能な世界を目指し、リアル(アプリ)ともネットともつながる利便性の高いIDです。2018年からスタートし、現在グループ内連携サービスを拡大中です。

 属性情報に関して、お客さまが最初にアプリ会員になるときは簡易情報のみで登録でき、加えてお客さまの利用範囲がネットに広がってくると、より深い情報をいただくことができます。

 購買情報はグループ横断で属性情報と合わせて単品レベルまでいただけており、これは皆さん、意外に取れていないことも多いです。

 行動情報は例えばサイトやアプリ内をどう回遊しているとか、グループ内を横断してどんな買物をされているのかが分かります。

 これらの情報は各事業会社が分析することが可能です。本部だけではなく、現場にも少しずつ活用を広げている最中です。

業態を超えた買物の仕方や個店の商圏が分かる

――7iDのデータによって、今まで気付かなかったニーズなど新たな発見はありましたか。

伏見 例えばイトーヨーカドーでヨーグルトの「ベビーダノン」が売れている上位店ほどベビーグッズがよく売れ、アカチャンホンポとの併用率が高いことが分かりました。今まではその関連性が見えていませんでした。

――販促に活用し、成功した事例は。

伏見 販促ではグループ横断のデータから導き出した顧客嗜好スコアを使ってグループ横断で実施したところ、ターゲティングした対象者は各社で売り上げが上がりました。例えばヘルス&ビューティに関心がある人は業態を超えて同じ分野の商品を買うということが分かりました。

――個店のマーケットも見えてくる。

伏見 セブン-イレブンは全国にあるので、大型店のイトーヨーカドーの周りにセブン‐イレブンの店舗もあるケースも多いです。すると個店の商圏の中にどういう人たちがいて、どこへ買物に行って、何を買っているのかが見えて、商圏が本来持っているポテンシャルやニーズが分かります。

 個店の品揃えは年月がたつと商圏に住む人たちのニーズとずれが発生することがあります。グループ横断の店の地図上にプロットすると、どんな属性のお客さまがどこから来ているのか、何を買ったのかが非常によく分かる。すると店の品揃えやレイアウトはこうあるべきではないかと見えてきます。ただ、それはあくまでも仮説要因ですから、お店が考え、実際に行動するためのヒントにしています。

――リアルとネットをまたいだ分析で分かったことは。

伏見 リアルとネットを併用するとお店の売上とカニバルと思いがちですが、実は利用の幅を広げるほど利用金額は高くなる。また、ネットを併用するとリアル店舗の売り上げも高まることが分かりました。これを数字で示すと、グループのシナジー(相乗効果)を追求し、リアルとデジタルを両方使うというメリットが理解できるようになり行動に変わります。これが7iDを推進する大きなエンジンになりました。

リテールメディア事業など新たな事業も創出できる

――7iDを活用した今後の事業構想は。

伏見 夢としては7iDのプラットフォームを使ってさまざまな事業創出をしていきたいと考えています。リテールメディア事業もその一つです。2500万人のIDがあると、人口の半分が7iDを持っているというエリアもあります。デジタル上に人が集まっているプラットフォームになっているので、これを活用してBtoB(事業者間取引)やBtoC(対消費者取引)、BtoBtoC(事業者間・対消費者取引)などのビジネスに活用が可能かなと考えています。

――セブン&アイの国内の重要戦略は①コンビニ事業とスーパーマーケット事業の連携、②イトーヨーカドーのネットスーパーの強化、③スマートフォンで注文した商品を自宅などに届ける「7NOW」の拡大―だと私は思います。これらの国内事業戦略と7iDはどのように関連していきますか。

伏見 各新規サービスも7iDのプラットフォーム上で動くようになる予定なので、今後拡大するイトーヨーカドーのネットスーパーをセブン-イレブンアプリのユーザーにお勧めするなど、シームレスに移動できるような世界をつくっていきたいと思います。

 ネットスーパーと7NOWの拡大はグループの最重要戦略なので、デジタル上でこれらを紹介しお勧めしていくと、個々のビジネスモデルの立ち上げが早くなると思います。

 この世界観は事業会社間の連携では非常に有効です。今まではグループが持っているそれぞれのお客さまの数を活かしきれていませんでした。これを活用することが可能になるのは7iDができた大きな変化点だと思っています。

――リテールメディア事業はスタートした。

伏見 セブン-イレブンでは専門の組織を立ち上げてスタートしていますし、他の事業会社も検討に入っています。グループ横断データを活用するニーズがあるかも同時にテストを進める予定です。セブン-イレブンアプリは1800万人の会員がいますし、7iD会員は2500万人分、全てデジタル接点があるので、リテールメディアはかなり大きな事業になると思います。

データ活用には「何のために」という目標が必要

――顧客データの活用には社内文化の変革も必要です。

伏見 今回の講演で私が話すのはID-POS(顧客属性・購買行動の紐づく購買データ)の利活用についてです。当社は単品の売り上げを最大化することで店舗の売り上げを最大化するという単品管理の発想が今も生きています。それはそれでいいのですが、商品起点でデータを見るだけで、買物をされるお客さまの情報は何も持っていなかった。今後はお客さま1人のウォレット(財布)シェアをどうやって引き上げるかという発想も必要になってきます。そこには新しい数値の見方や顧客軸でデータを見ていくなどの社内文化の変革が必要になります。

――データ活用をする際に注意すべき点は。

伏見 データ活用は何のために使うのかという目的がないといけないと思っています。もちろん、やりながら考えることもあるでしょうが、何をやりたいのかという意思がないと何も生まれないと思います。

――CRMを構築する上で大切なポイントは。

伏見 お客さまのロイヤルティを上げるのは難しいです。何を求めているのかは意外とデータだけでは見えない部分もあります。お客さまの声をきちんと聴いて、どこに不満があり、お客さまとのギャップがあるのかは定量的、定性的に確認していくことが重要です。

 そして打ち手は早く回すことです。どんな施策が効果的なのかは市場に出してみないと分からないと強く思っています。生きた反応と生きた施策、データを全部使って、リアルタイムに肌で感じて、一つ一つ丁寧に磨き上げていくことが重要だと思います。

 11月28~29日に開催される「第10回 リテールDXフォーラム」の伏見氏の特別講演Ⅱ「2500万会員の7iDデータ利活用とCRM戦略」では、7iDデータの具体的な活用方法や顧客満足度を高める同社の取り組みについて解説してくれる。

 

 「リテールDXフォーラム」ではこの他、イケア・ジャパンのペトラ・ファーレ社長、三越伊勢丹ホールディングスの三部智英執行役員、トライアルホールディングスの永田洋幸取締役などの講演も予定されている。

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