写真:AP/アフロ

 コンビニにおける店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)で先進的な取り組みを行っているのが、ファミリーマートだ。同社の店舗DX推進の中心となる狩野智宏 執行役員 リクルーティング・開発本部長は語る。

「これまでコンビニの本部は運営がしやすい画一的な店舗を数多くつくり、それを加盟店の方に経営いただくことで、右肩上がりの成長を実現させてきました。しかし、昨今はこの店舗モデルのままでは店舗運営がしにくくなってきています。パート・アルバイトが集まりにくく、それにより店舗運営コストで大きな割合を占める人件費が年々上昇しています。本部、加盟店の両方が今後も事業を拡大させていくには、この課題に対応できる店舗が必要になっているのです。そのため、店舗運営コストを下げ、大きな売上がなくても成り立つ店舗モデルをつくろうと、店舗運営の省人化・自動化の実験を始めました」

 通常、小売企業の場合、店舗DXは専門部署を設けて取り組むことが多いが、ファミリーマートでは店舗の現場や加盟者の課題を理解するリクルーティング・開発本部(店舗の物件開発と加盟店開拓を行う部署)もその一部を担うことで、店舗モデルづくりまで踏み込んだ店舗DXを推進する。

2人で行う店舗運営を1人でできるように

 狩野氏たちがまず取り組んだのが無人決済店舗だ。2021年2月、ファミリーマートは無人決済店舗の開発を進めるTOUCH TO GO(タッチ トゥ ゴー)と、同社が開発した無人決済システムを活用した無人決済店舗の実用化に向けて資本業務提携を行い、同年3月、東京・丸の内に1号店をオープンさせた。

「通常の店舗は店舗運営のために2人のスタッフが必要ですが、それを1人にできれば人件費は半分になります。店舗のスタッフはレジ、商品の陳列、清掃などさまざまな業務を行いますが、そのうちの3割は実はレジでの作業なのです。そこで、人を介さずに決済を行える仕組みを導入することにしました。

 無人決済店舗は通常よりも小ぶりで、売場面積は10~15坪、品揃えは通常の店舗の3割ほどの900品目。店舗スタッフ1人で運営でき、既存の加盟店オーナーにサテライト店という位置付けで経営いただいています。サテライト店の利益は通常の店舗ほどにはなりませんが、母店の利益にプラスアルファできれば、加盟店オーナーの経営にプラスとなります。現在、無人決済店舗は23店舗あります」(狩野氏)

狩野 智宏/ファミリーマート 執行役員 リクルーティング・開発本部長

1996年ファミリーマート入社。主に店舗、新業態店舗の開発を行う。2004年に出店施設のライフスタイルに対応した新しいコンビニである「ファミマ!!」ブランドの立ち上げに携わる。2012年法人開発部長、2020年広域・大規模法人開発部長として、ファミリーマート店舗、マイクロマーケット省人化店舗の開発および新業態店舗などの開発を担当し、「無人決済店舗」「飲料補充AIロボット」を推進。2023年3月より現職。
(撮影:川口紘)

 実はここにきて、コンビニ業界の店舗運営スタッフ不足は深刻さを増している。

「2019年は人手不足で苦労しましたが、2020年はコロナパンデミックによる飲食店の営業自粛等によりで、それが一部緩和されました。しかし、昨今は飲食店の営業も再開し、人手不足がまた顕在化しています」(狩野氏)

 この無人決済店舗はその店舗で働く店舗スタッフの業務量を減らし、必要人員を減少させることを目的にしたものだが、思わぬ副産物も生み出した。

「無人決済店舗なら通常の店舗と比べ、商圏の人口が少なくても出店が可能です。工場、物流センター、高校、大学、市役所といった商圏人口が限られた立地や、郊外において住民が買い物に不便を感じているところなどにも出店ができます。また、母店からカメラを通じて、リモートでサテライト店の状況を確認できます」(狩野氏)

 この仕組みが進化していけば、遠隔からでも店舗運営が可能になる未来が切り開けるかもしれないのだ。