伊藤忠商事は、「食料」「繊維」「機械」「金属」など分野ごとに体制が分かれるカンパニー制度を導入する総合商社だが、2019年に「商品縦割り」を打破すべく「第8カンパニー」を新設している。実は、この組織、「マーケットイン」の発想に立脚し、横串機能を着実に高めるべく、グループ企業のファミリーマートの収益力改善などを推進するというものだ。
同社が2021年5月に公表した2023年までの中期経営計画「Brand-new Deal 2023」。これでは、基本方針の1つとして「『マーケットイン』による事業変革」を掲げ、その実現のために、これまで取り組んできたデジタル技術を活用したリテール事業の高度化やサプライチェーン最適化を主要施策として、バリューチェーン変革に挑むとしている。
そのために、同社は2021年4月に、それまでのIT企画部と次世代ビジネス推進室を統合、CDO・CIOによるグループ全体のIT・デジタル戦略およびDX推進の指揮を支援・遂行するIT・デジタル戦略部を設置している。
同社のDX関連の取り組みは多岐にわたるが、今回は、商社の顧客志向のDXとして、同社の流通業界の変革の取り組みと、食品分野・繊維分野・医療分野での新事業(それぞれプラットフォームを展開または構想)について見てみたい。そして、流通変革とプラットフォーム構築との関係にも注目してみたい。
DX先進企業のDXはどこがすごいのか。その戦略とビジネスモデルを研究する幡鎌博氏(デジタル・ビジネスモデル研究所代表)が解説します。
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【流通業界の変革】グループ全体の顧客データを活用し、バリューチェーン変革と新事業展開
まず、伊藤忠商事は流通のバリューチェーンを大きく変革すべく、グループ企業とデータ活用面で積極的に協力していることに注目したい。
同社の第8カンパニーは、ファミリーマートや日本アクセスとのデータ活用体制を整備し、発注・在庫・物流のバリューチェーン最適化や、ファミリーマート実店舗での新たな取り組み(デジタルサイネージや人型AI)の実験などに参加している。
さらに、伊藤忠グループ全体の顧客データを統合化してDMP(Data Management Platform)を構築してデータ活用を進め、新たなビジネス創出につなげることを目指しているという。
このように顧客データを統合することで、消費者ニーズの変化の発見などが期待できるため、後述のプラットフォーム展開と組み合わせることで、大きな事業展開が可能になると考えられる。実際、同社は次のような3つの新事業を始めている。