【食料分野の新事業】 FOODATAの提供と食のデータプラットフォーム構築へ

 食料分野では、同社は2021年7月、ウイングアーク1st、味香り戦略研究所、電通リテールマーケティングと業務提携し、食の商品企画・開発領域におけるDX支援サービス「FOODATA」の提供を開始した。

 FOODATAは、味・栄養・原材料等の食品に関する「モノデータ」と、ID-POS(顧客ID付きPOSデータ)・意識(アンケート)・口コミ等の消費者の行動・嗜好に関する「ヒトデータ」を掛け合わせ、その分析結果をダッシュボードで可視化できるデータ分析ツールを提供するというもの。このサービスは、グループ企業などから消費者に関するデータを収集できることの強みを生かすことで、実現可能となったといえる。

 同社は、FOODATAを起点に、商品拡販・原料調達・システム開発などの幅広いソリューションを提供し、本サービスの食以外の領域への展開も検討する意向である。そして、この取り組みを皮切りに、食のバリューチェーン上に散在するデータの収集・統合・活用のためのデータプラットフォーム構築を推進して、食品業界全体のDX推進・バリューチェーンの価値向上を目指している。

【繊維分野の新事業】学生服ECプラットフォーム「学校生活」

 同社は、繊維事業におけるビジネスの進化の一環として、2020年8月、ECプラットフォーム「学校生活」をオープンし、2021年度の入学生向けに学校指定の学生服や学習用品の展開を開始した。

 「学校生活」は、受発注・代金回収・物流などのフルフィルメント機能を備えており、時間や場所の制限なく、インターネット上で注文するだけで、自宅などへの配送が可能。また、オンライン試着サービス「VIRTUSIZE(バーチャサイズ)」を搭載しており、自宅にいながら体型に合うサイズを選んで注文できるので、生徒や保護者は採寸会に足を運ぶ必要がなくなり、販売業者や学校関係者の作業負荷の軽減につながる。

 今後は、鞄やシューズ、Tシャツ、靴下など、伊藤忠商事のネットワークも活用しながら、学生生活に必要なアイテムへと展開を拡大し、サービス開始から3年後に流通総額50億円規模を目指すとしている。

 なお、この事業に関連すると思われるビジネスモデル特許「学用品販売システム、学用品販売方法および学用品販売プログラム」(特許第7116152号)を伊藤忠商事は2022年に取得している。その特許資料には、「各生徒が通うあるいは通う予定の学校が指定した学校指定商品については、当該生徒のみが実質的に購入できように制限され、第三者が意図的あるいは誤って購入してしまうことを防止できる」というような効果も記述されている。

【医療分野の新事業】医師向けプラットフォーム事業への出資とDX展開

 同社は2022年9月、東南アジア最大の医師向けプラットフォームを運営するDOCQUITY社(本社:シンガポール)に3200万米ドルを追加出資して、持分法適用会社化した。東南アジアにおける医療・ヘルスケア分野のデジタル化が加速して、国を超えた医師同士の知見共有や、製薬企業から医師への医薬情報提供において、オンラインの活用が急激に浸透している動きから、このような出資を判断したとのことである。

 医師は、DOCQUITYのアプリを利用することで、最新の医療情報の取得や、国を超えた医師同士の臨床経験の共有、意見交換が可能に。さらに、製薬企業を中心とした医薬関連企業のデジタルマーケティング支援のために、アプリ内に各企業の専用チャネルを開設し、製品や疾患等の情報を医師へ提供する事業も拡大させている。

 伊藤忠商事は、「『マーケットイン』による事業変革」の基本方針から、このDOCQUITYの医師向けプラットフォームを活用して、医師/医療機関向けの新たなデジタルサービスを展開するなど、医療・ヘルスケアDX事業を推進する意向である。さらに、同社は、救急外来向けシステムを開発するTXPメディカルや検査画像の共有システムを手掛けるエムネスなどの企業にも出資して、医療関連で幅広くDX展開しようとしている。

 今回は3つの事例を紹介したが、これらの新たな事業展開(バリューチェーン変革の実現など)から、さまざまな分野で最終顧客への価値の高いサービスが提供されることが期待できる。

 このように同社はマーケットインを指向する商社として、利用者などのデータに着目して、流通事業などでグループ企業やデジタルパートナー企業との積極的なデータ連携を進めているわけだが、これは次のようなことを意味すると著者は考えている。

 つまり、従来の物理的な資源のビジネスを中心とした商社から、社内外のデータを集めたビッグデータから有益なデジタル資源を生み、さらにプラットフォーム構築を進めることでデジタル資源をさらに集積して、その資源から新たなデジタル化されたビジネスを生み続けるような役割の商社へと自己変革することを目指しているということだろう。

 図は、マーケットイン志向とプラットフォーム展開を進めることで期待できる新たな商社像(筆者が考える理想像)を示している。プラットフォームに蓄積されたデータや、マーケットイン志向の流通事業から導き出されたニーズなどを、新たなプラットフォーム/サービスの創造に結び付けることが期待できるのである。

 さらに、展開した多くのプラットフォームを有機的につなぎ合わせることまでできるようになれば、デジタル化されたビジネスのエコシステムを作り出し、さらに発展させるような新たな商社像が見えてくるであろう。