国内に約70万台の飲料自動販売機を設置、管理するコカ・コーラ ボトラーズジャパンがDXを加速させている。自社開発したAIを活用した飲料の販売予測により、人間の経験と勘を超えた利益最大化の実現に加え、「普及率100%」の営業担当者向けデジタルツールによる業務効率化を進める。同社で組織横断的にDXを推進する川瀬文彦氏と、データサイエンスを統括する松田実法氏に、自動販売機事業におけるデータ活用の現在地と未来を聞いた。
国内70万台の自動販売機が生み出す膨大なデータを生かす
――自動販売機業界の中で、コカ・コーラ ボトラーズジャパンが向き合っている課題はどういったものですか。
川瀬文彦氏(以下敬称略) 当社が管理する自動販売機は、1都2府35県に約70万台が稼働しており、1億人以上のお客様に商品を販売しています。昨今、商品販売の競争をめぐる環境は大きく変わってきています。自動販売機は日本市場で飽和状態といわれるなか、購買客は自動販売機以外にもコンビニやスーパー、さらにオンラインで飲料を購買する機会も増えています。さらに、コロナ禍でこうした購買行動の変化に拍車がかかりました。マーケティングを考えるうえで、顧客へのアプローチ手段の組み合わせであるチャネルミックスのあり方は、大きく変わってきていると捉えています。
もう一つ、自動販売機ビジネスで重要なことはオペレーションの体制確保です。70万台全ての自動販売機が置いてある場所に出向き、補充する作業が必要です。労働人口が減少するなかで、ビジネスの維持継続のためには、人員の効率的なオペレーションを究極まで進化させる必要があります。
これらの課題に取り組むうえで、カギを握るのはデータの活用です。すでにオンライン化している自動販売機からのデータは自動で収集していますし、そうでない自動販売機からの販売データも補充時に取得していますので、70万台の自動販売機のデータを常に収集しています。70万台の規模間でのデータ活用は、当社だけが持つ強力な競争力の源泉であるといえます。
人間にできない「スポーツ施設にホットミルクティー」
――自動販売機からのデータを取得し、分析することでどのようなことを目指しているのですか。
松田実法氏(以下・敬称略) 当社が管理する自動販売機の商品販売にかかわるさまざまなデータを取得し、全てを一つのプラットフォームに集約しています。業務の効率化と売り上げ、利益の最大化を図ることが目的です。70万台の自動販売機から得られるデータは数十億件にもおよびます。これらを高速に処理し、分析するためにクラウドによる強力なデータプラットフォームを構築しました。自動販売機のデータと外部の地域の人口動態といったオープンデータ、さらに気候やイベントの有無などの外部データを全て取り込み、AIによる分析を行うことができます。
――多くの企業で、データは持っていてもそれを有効に使うことができない現実に直面しています。そのなかでコカ・コーラ ボトラーズジャパンのデータ活用がうまくいっている理由は何でしょうか。
松田 10年ほど前、ビッグデータの有用性が認識されるようになり、多くの企業がとにかくデータを集めました。けれども、「次に何をしたらよいのか」と立ち止まってしまう場合も多かったかもしれません。会社としてはAIの外注などを検討したものの、現場の感覚との乖離があり、概念実証(PoC)を試みるだけにとどまるという話も聞きました。
そこで当社では、AI(機械学習)の仕組みをインハウスでつくり、非AIの統計分析技術などと組み合わせて使っています。自前でつくることは挑戦でしたが、試行錯誤の段階を経て、今はAIで売り上げに影響する状況を分析し、予測するという実用段階までくることができました。