米アマゾン・ドット・コムはレジレスコンビニ「Amazon Go」の米国内8店舗の閉鎖を公表したが、ロボットピッキングシステムのショールーミングストア「Amazon Style」も課題山積で離陸が危ぶまれる。デジタル技術の進化は速く、実用化にてこずるうちにレガシーと化してしまうことも少なくない。

シリーズ「流通ストラテジスト 小島健輔の直言」
小島健輔が解説「アパレル業界のDXはなぜ、分断と混迷を抜け出せない?」
■小島健輔が喝破、「Amazon GoとAmazon Styleの問題はここにあり(本稿)

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

「Amazon Go」はもはやレガシーだ

 2018年1月にシアトルで初公開されたレジレスコンビニ「Amazon Go」は23年3月末で29店舗まで増え、システムを外販した店舗を含めれば90店舗を超えたと推計されているが、入店客の行動をAIが追跡して画像解析する手法はハリネズミのごとく多数のカメラと各種のセンサーを要して設備投資と演算負荷が大きく、実用精度に達したかも定かでない(この3月末に筆者たちはトーランスの新店を訪れたが、同行者が購入した際のレシートはいまだ届いていない)。

 マテハンはもちろんチェックインの案内と監視(酒類購入の年齢確認に加え遠隔監視にも人員を要するようだ)も必要で、同サイズのコンビニの倍以上もスタッフを張り付けなければならず、品揃えの魅力も欠くことから、小売店舗としての採算性は到底、望むべくもない。

 グロサリーストア(食料品特化のスーパー)の「Amazon Fresh」でも、棚の重量センサーで出し入れがつかみくい軽量の加工食品など欠落する品目が少なくないし、画像で商品を特定しづらい裸陳列の生鮮食品は顧客によるシリアルナンバーの手入力と計量に依存している。

 3300平米級(バックヤードも含む)の「Amazon Fresh」は価格と品目数はともかく日常の食品購入に必要な品揃えがあるが、コンビニサイズの「Amazon Go」は絶対品目数が米国「7-Eleven」の半分ぐらいの低密度で(米国「7-Eleven」自体が日本よりかなり低密度)、値付けも割高感を否めず、惣菜や弁当がそろうわけでもなく(ファストフードのキオスク併設店はある)、日本のコンビニのような日常利用には程遠い。

 「Amazon Go」に触発されて類似したレジレスコンビニが雨後の筍のように増殖した中国でもほとんどが行き詰まったようだし、それらの反省から現実的な軽装備を模索したわが国のレジレス店舗も顧客を特定できる企業内や病院内、ホテル内や鉄道駅内のキオスク型に収れんし、コンビニやスーパーのセルフ精算はレジにカメラ、カートにスキャナーを集約する手軽なデバイス型に帰結している。

 リテールメディアを志向して店内に多数のカメラとセンサーを配置する事例も見られるが、スマホのストアアプリを介したBluetoothやWi-Fiによるインストア通信、商品画像をAIが照合するクラウドサービスの普及でレガシー化は必至だ。

 セルフレジやスマートカートも、精度が完璧でなく手間取る顧客のバーコードスキャンからデバイス内に多方向に配置されたカメラによる商品画像のAI照合に移行しており、「Amazon Fresh」のDash Cartも一見したところではその方式に見える。

 これら手軽な実用技術の進化と普及によって、設備投資も運営費用もかさむ「Amazon Go」は使えないレガシーと化し、遠からず消えていく運命にある。