経営統合の記者会見に臨んだ(左から)日野自動車の小木曽聡社長、トヨタ自動車の佐藤恒治社長、ダイムラートラックのマーティン・ダウムCEO、三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペンCEO(写真:ロイター/アフロ)

なぜ統合してまでグローバルシェアを拡大したいのか

 大規模な排出ガス不正から経営危機に直面し、動向が注目されていた日野自動車が急転直下、独ダイムラートラックの子会社である三菱ふそうトラック・バスと経営統合されることとなった。

 5月30日に行われた記者会見によれば、トヨタ自動車、ダイムラートラックが対等の出資比率となる持株会社を2024年末までに設立し、日野と三菱ふそうがその傘下に入るという形を取るという。

 日野は排出ガス認証について巨額の損失を計上したことで、2022年度は2期連続となる純損失1177億円を出すなど経営は火の車。得意とするアジア市場で収益の大幅増を果たすなど明るい材料もあるが、最大のライバルであるいすゞ自動車に比べて収益力で圧倒的な差をつけられるなど、元々課題も多く抱えていた。

 ダイムラートラックがあえて火中の栗を拾いに出た動機が経営統合によるグローバルシェア拡大であることは言うまでもないが、問題はなぜシェアを拡大したいのかである。

「三菱ふそうと日野が手を結べば、カーボンニュートラルを果たすのに必要なすべての技術にアクセスできる」

 会見でダイムラートラックのCEO(最高経営責任者)であるマーティン・ダウム氏は短期的な利益拡大ではなく、カーボンニュートラル化、自動運転化を加速させるための決断であることを強調した。その言葉の裏にあるのは、世界の商用車メーカーが置かれている脱炭素をはじめとした課題克服の道筋が見えないという厳しい現実である。

 まずは脱炭素。乗用車分野では中長期的にはバッテリー式電気自動車への転換が有効と目されている。現時点では多大な問題を抱えてはいるが、技術革新である程度は克服可能と考えられている。仮に問題を解消できずとも、コンシューマー相手であれば世界各国の政府が政策的にパーソナルモビリティによる移動の制限に乗り出すという選択肢もあり、すでに欧州では世論形成のための観測気球が一部で上げられたりもしている。

 だが、物流業界はそうはいかない。地産地消の推進で物流需要を減らそうにも、国や地域間での分業がこれだけ進んでしまった現状に鑑みれば限界がある。トラックそのものをカーボンニュートラル化できなければ、現代の文明社会を維持できない。

物流業界はトラック自体のカーボンニュートラル化が求められている(写真はイメージ)