三菱ふそうの電気小型トラック「eCanter」

大型トラックのEV化を阻む「コスト、性能、安定稼働」の壁

「顧客オリエンテッド」に徹したサービス設計という点で注目すべきDX案件が自動車業界から立て続けに2件飛び出した。いすゞ自動車が3月7日に発表した「Evision(イービジョン)」と三菱ふそうトラック・バスが3月9日に発表した「FUSO eモビリティソリューションズ」。いずれもバッテリー式電気自動車(BEV)のトラック向けの導入・運用サポートプログラムだ。

 トラック分野から相次いでDX案件が登場した背景には、普通にBEVトラックを作って売るだけでは到底顧客に受け入れてもらえそうにないという切実な事情もある。

 商用車の世界でも脱石油、低CO2化の圧力は強まる一方だが、純粋な事業用途である商用車の電動化は、速い・静かといった趣味の入り込む余地がある乗用車とは比較にならないくらい多大な困難がつきまとう。

 まずはコスト。電気自動車の場合はバッテリーを積めば積むほどそれに比例してクルマの値段がうなぎ登りに高くなる。また、燃料電池電気自動車(FCEV)の場合は元の車両価格が高価なだけでなく、軽油を使用するディーゼル車の何倍もの燃料代がかかる。現在の物流コストの許容範囲内に到底収まらないという点はどちらも同じだ。

 次に性能。昨年、テスラがトラクター型の大型トラック「SEMI」を発表するなどBEV化の動きがあるにはあるが、たとえば東京~九州を結ぶGVW(車両総重量25トン)クラスの大型トラックをBEV化した場合、消費電力量は片道で1000kWhを軽く超えると推定される。

 その間を無充電で走らせ、さらに不測の事態に備えるため何割か余裕を持たせようとすれば、バッテリー重量だけで5トンくらいになる。走行以外にも電力を使う冷凍車などはさらに重量がかさむ。トラックの総重量は決まっているので、そのぶん積める荷の重量は激減する。荷物を積み替えずにヘッド部分だけを交換できるトラクター方式ならバッテリー搭載量を減らせるが、長距離輸送の際はトラクターヘッドを何台分も用意するのは馬鹿げている。

 現在の物流トラックをBEVに置き換えるためには、少なくともバッテリーの容量や充電の速さを今の3倍くらいには持って行かないと話にならない。そういう技術が登場するまではエンジン車にリプレイス可能なのは自ずと小型トラックに限定される。

 そして安定稼働の問題もある。物流にとって即応性とタイムスケジュールは生命線。いざというときに電池切れですというのではまったくビジネスにならないし、バッテリーへの充電で大幅に遅延したり、航続不足でスケジュール変更に応じられなかったり、さまざまな支障が出ることは容易に察しがつく。

 結局、現時点でBEVトラックを導入可能なのは「小型」「短距離」「固定ルート」という運用を行う事業者にほぼ限定される。ゆえにいすゞ、三菱ふそうともBEVトラックを総重量5トンから8トンまでのクラスに限って投入しているのだ。

 それでもBEVトラックの価格はディーゼル車の数倍で、走行可能距離は数分の1。いすゞ関係者も「当面、企業のCO2排出規制に対応するために導入せざるを得ないという顧客が中心となる。環境負荷の低さをアピールしたいという事業者も販売の対象になるが、しばらくは少数ではないか」と、一気にビジネスが広がるとはみていない。